2020年07月28日

高校の話~13 甲の薬は乙の毒~

高校の話~13 甲の薬は乙の毒~
画像:O先生

国語のO先生との、ノートをめぐるごたごたについてはこれまでも書いたところ。
あの頃の私、ほんとに偏屈だったな、って笑ってたけど。

高校時代の教材とかノートは、だいぶ厳選したけど、いまもわりととってある。
去年、つくばに帰ったときに、棚の整理をしていて、そのノートを発見した。
端から見返して、軽くショックだったのは、まぁ不毛なやり取りが、毎回毎回、これでもかってくらい、えんえんと繰り返されていたこと。

「こんなふうにまとめなくちゃいけません」→「でもそれ、私には必要ないんで大丈夫です」→「不可。再提出!」→「不可でいいです、別に」…
単元がひとつ終わるたび、さいしょからその繰り返し。
いやちょっと待て、これ先生のほうだって、相当偏屈だったよ。

思えばあの頃の自分、ことさら「偏屈でいこう!」と思ってたわけではない。
ふつうにしてたら何だか向こうからゴタゴタと絡んでくるから、
「うるさいなぁ」と流していたらまた絡んできて…みたいな感じだった。

「こうふにまとめよ」って言われても。
それ、私のノートだし。
アナタの基準と合わなくても、別に私はかまわないし。
もう義務教育じゃないんだから、好きにさせて。
そんな毎回、絡んでこないで。って思ってた。

竜一は、自由な気風が好きだったのに。
O先生のしつっこさは中学の時の管理教育を思い出して、
けっこう本気でイヤだった。
だから高校時代、さいしょの2年半くらいは、O先生は私にとって「けっこうめんどくさい人」だった。
(って、ゴメン、それ高校生活のほとんどだ。)

 ***

そのうち諦めたのか、ノートについては、あんまり言ってこなくなった。
同時に、うすうす、感じ始めた。
先生は、ノート以外のことも、言わなかった。

ほんと言って、あの頃の私、相当頭でっかちだったし、
相当、偏っていた。何かにつけて。
もちろん先生は知っていた。
でも、何も言わなかった。

何か言うのは容易だっただろう。
でも、言っても聞く耳をもたなかったであろうことも確か。
それが分かってたんだな。

授業ではあんなにお喋りな先生なのに。
私に向っては、批判とか助言とか、何も、一言も、まったく言われたことがない。
偏った考えに凝り固まっていたときも、
ぐちゃぐちゃ悩んでいたときも。
さりげなく、見て見ぬふりして、放っておいてくれてた。

何か言ってくれるだけでなく、
言わないでくれるデリカシーっていうのもあるんだな。
うすうす、それを感じるようになった。

その絶妙な距離のとり方が、
<かっこわるい部分を知ってくれてる感>が、
今も先生に感じる絶大な安心感につながってる気がする。

 ***

さいごの半年になって、気が変わり、やっぱり大学を受けることに。
志望校が決まったのが11月くらいだったのだけど、小論文があって。
でも、小論なんて何をどう書いたらいいんだか、さっぱり分からない。
予備校とかに行かなくちゃならないかな、と思っていた。
それまで、塾とか予備校とか、まったく行ったことがなかったの。
行ったことがあるのは、ピアノ教室くらい。

…と思っていたら、O先生の方から来てくれて、
「よし、じゃあ、小論対策やるか」って。
なんか、個人指導してくれるらしい。
…びっくり。えー、いいんですか? 公立高校なのに?
というか、その前に、私、あんな反逆児だったのに。

あれだけ私に手こずったのに。
まったく根に持つようすもなく。
狐につままれた感じのまま、小論指導が始まった。

いまでも、棚の整理してると、練習で書いた原稿が山のように出てきてびっくりする。
こんな大量に見てもらってたのかー!
どれだけ先生の時間を取ったのだろう…。

そういうわけで、私は大学に入るまで、結局一度も塾や予備校に行ったことがない。
これはほんとうに誇り。
自分のじゃなくて、先生たちが私の誇り。
竜一の先生たちの授業だけ聞いていれば、大学に入れる!っていう、私はその生き証人なんです。

でも、美談で終わらすのもよくないな。
O先生、いまは再び国語の先生になって、やっぱり小論を見てると言ってたけど、ほんとに、大変そう。
あれは公立高校でやることじゃないわ、と今でも思う。
あまりに負担が大きすぎる。

 ***

そんなわけで。
卒業して何十年もたった今、なんか、改めてふしぎになった。
あの頃、何であそこまでノート提出なんかにこだわってたんだろう?
ほんとは、そんな人じゃないのにな。
きっと上からの指導要綱かなんかで、ノートの取り方指導を徹底するように言われていたのかな。

それで、あるとき、聞いてみた。
あの頃、なんであそこまでノートにこだわってたんですか?
そしたら何と、驚くような答えが返ってきた。

俺、よく覚えてないんだけどさ。
はじめはたしか、テストではなかなか及第点を取れない、運動部の子たちに、何とか点をあげようとして始めたことだったんだ。
毎回ノート提出させて少しでも点つければ、証拠になるでしょ。

…あっけにとられてしまった。
えーっ?! そういう目的だったの?!
何と。…典型的な、<甲の薬は乙の毒>ってやつだわ、それ。
被害を被ったこちらとしては、たまったものじゃなかったけど。

…やっぱり、ちゃんと聞いてみるって、大切だな。
思いもかけないような意図があったりするんだな。

「ちょうどあの頃から、思うようになったんだよ。
あれ、この子たちは、こっちから言わなくても、自分のやり方でやってけるんじゃないか?って。」
いや、ほんとかな、それ。
毎回私とやりあうのがあまりにも不毛だから、そのうち諦めたのかと思っていたよ。

当のご本人は、あんまり覚えてないようで。
「俺、そんなノート提出にこだわってたっけ?」って、のんきなもの。
いやいや、相当、しつこかったから。

「今もノート提出させてるんですか?」って聞くと、
「今はもうやってないよ、そんなの」と言って笑った。

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Posted by 中島迂生 at 02:48│Comments(0)高校の話 2020
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