2010年09月20日

次作作品<石垣の花嫁>の参加者募集中。

 

脚本リンク→http://ballylee.tsukuba.ch/c4018.html

来年1月くらいをめどにいちど初演をおこない(屋内)、その後、3月の野外イベント<つくばセントパトリックス・フェス>にてふたたび上演したいと考えています。
役者さんをもう少し必要としています。
裏方さんも歓迎です。希望お伝えください。
練習日時・場所等、各人の都合にできるだけ合わせてフレキシブルにやっています。
興味ある方、左上フォームよりお気軽にお問い合わせください。
  

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2010年09月09日

新作の脚本書き、近隣の劇団さん情報、など

     
 劇団バリリー座第3作<石垣の花嫁> 目下の脚本です。上は登場人物のスケッチ。
 共演者・参加者募集中。経験問わず。
 http://ballylee.tsukuba.ch/c4018.html

     *

 ほぼ、個人的メモです。 

 散文作品→脚本に書き改める作業。3作目にしてまた同じ苦しみ。
 この二つ、本質的に違う表現形態だ。
 いちど骨組みのところまでもういちど掘り下げて、あらたに根っこから組み直さないといけない。
 もういちど物語に同化して、生き直さないと。
 数こなすうちに少しは慣れていくんだろうか。
 私にはいまだにすごくしんどい。

 散文を書くときは、物語をくれた<彼ら>の方を、大地の精霊たちのほうを向いてる。
 書くべきことをひとつも書き落とさないですっかり書きあげることが主体だ。
 読む人は、退屈だと思ったら適当に読み飛ばしてくれればいい。
 
 でも、脚本は、お客さんがすべて。
 せっかく見に来てくれてるのに飽きさせたら失礼だ。
 そこにいるのだから、いつづけるか、立ち去るかしかない。
 いてくれる人をできれば一瞬たりとも飽きさせたくないから、ゆるぎない、緊密な構成を考える。
 言葉づかいも、できるだけ平易に。今風に。
 間違っても文語はなしだ。

 散文のほうでは、アンリ・ルソーの絵のように、背景の自然描写をこれでもかというくらい緻密に描きこむ。
 ストーリーや会話は、ジャコメッティの彫刻のようにぎりぎりまでそぎ落としてしまう。
 淡々と、起こった出来事を記すだけ。
 心理描写なんかはほとんどない。
 そっけなさすぎるくらい。

 でも、けっこうそんなふうだ。彼らの書き方は。
 クーリーの牛争いからイェイツの採話に至るまで。
 能の表現などに通じるミニマリズムといわれるゆえん。

 そこから、どこでどれだけセリフをふやすか、地の分のどこまでを会話での表現に置き換えるか。
 あくまで、説明ゼリフなしで。
 それが問題だ。毎回。

 ふやすのは絶対に必要だが、やみくもにふやせばいいってものではない。
 やみくもにふやしたセリフは死んでるのが見れば分かる。
 あまりに長々としてるより、どちらかというと少なめの方が締まる。
 というか、そのほうが自分の好みだ。

 だが、どのくらいだとちょうどいいのか。
 そんな当たり前なことわざわざ喋らなくてもいいだろうと私が思っても、必要なこともあるみたいだ。

 多めに書き加えて、あとから削って締めるのがいいみたい。
 ロスが多い。でも仕方ない。
 いい脚本にするには、手間ひまを惜しんではいけない。

 全体の配分としては、セリフ、地の文、音楽までふくめた聴覚的要素が10のうち3~4くらい。
 どれも手間ひま惜しまずに全力投球でつくるけど、でもそれを前面には出さない。
 どっちかというと衣裳、背景、ダンスをふくむ体の動きといった視覚的要素のほうに重きをおく。
 やっぱり、私は基本、舞台はまず視覚の芸術だと思ってるから。

      *

 原作を読みなおしながら、色々思い返す。
 物語ものは<やってきた>ものにせよ、構成要素のひとつずつ、色んなイメージのアーキタイプは見まがいようもない。
 インスピレーションというのはそういうもの。
 まるっきり全然知らないものからはできない。

 森の中を鹿のように駆けまわるキーナのイメージは、ウィリアム・ハドソンの The Green Mansion。
 映画ではオードリー・ヘプパーンが主演してた。あまり有名じゃないけど。

 娘を失って悲嘆にくれる森の神は、エヒウだ。まちがいなく。
 子供のころ、神ってほんと汚ないよな、と思ってた。知ってたに違いないもの。

 チェスが物語のキーといえば、<鏡の国のアリス>もそう。
 アーサー・ランサムも、チェスを愛した。
 ジャーナリズムにも関わってた人で、あちら側とこちら側と両方から物事を考えるために、時々ひとりチェスをやってたという。
 それが物語を書くにあたっても生きてる。

 そして、実は、クーリーの牛争い。

      *

 セリフを加える作業。
 もともとの人物像のとおりに、その延長線からずれないように注意して広げていかなくてはならない。
 となると、この人はいったいどういう人なのか、まじめに洞察しなくてはならない。
 登場人物のそれぞれを、シンプルな原文から。

 原文は、私は聖書みたいなものだと思ってる。
 自分で書いておいてなんだけど。
 インスピレーションで書いたので、絶対に正しいのだけど、ポンともらって書いただけだから、私自身はこまかい背景とか事情とか、実はよく知らない。

 いちばん難しかったのは、キーナが門番の兵士を説得して自分の側につけるくだりのセリフ。
 原文・・・

”あるとき石の神は神々の集まりに出かけて都を留守にした。すると、キーナは門の見張りにあたっていた兵士の若者に近づいて、こう言った。
「あなたの仕える主人の栄光は尽きようとしています。この国は遠からず私たち森の民のものとなる定めにあるのです。
  いま、私の側について、私が逃げるのを助け、石の神を打ち倒すのに力を貸すなら、私の父はやがて全土にわたるその王国でお前に高い地位を与え、また私をも与えるでしょう」
 そこで若者はキーナを助けることに同意した。”

 これだけでは、いくら何でも舞台として成り立たない。
 少しは増やさないと。

 でも、人を引きこんで飽きさせない、ちょうどいい長さで、説得力をもったセリフと場面展開、となるとなかなか難しい。

 まじめに考える。
 キーナは、じっさいのところ一体どうやって物事を運んだのだろうか?
 これだけ読むとその場でいきなり言ったようだけど?

 ほんとにその場でいきなり言ったのか? それとも前々から少しずつ計画を話して、彼を味方に引き込んでいったのだろうか? 
 前々から話してしまうと寝返られる危険があるし、いきなりだと相手を抱き込みきれない恐れがあって、リスクが大きい。

 キーナの性格・・・勇敢で直情的で、己れの運命を受け入れる強さ。
 でも、他方、マグアに入れ知恵されてじっと時を待ちながら作戦を練る粘り強さもある。
 それらをあわせて考えると、どうなるか。

 この国は近く滅びる! と言っても、その時点では何の証拠もないわけだから、キーナがいかに説得力をもって話せるかがかぎとなってくる。
 内容は説得力がないから、話し方や態度にいかに確信こめるか。

 その前に、いかに相手を心情的に引き込んでいるか。
 何を言っても、心情的に引き込んでいないとだめだろう。
 結局、それがかなめとなってくるだろう。
 引き込んでいさえすれば、証拠のないことを言っても相手を動かせる。

 つまり、キーナは、千載一遇のそのときに至るまでに、相手を心情的に自分の側に引き込むという重要な作業を終えている。
 具体的な計画じたいは、そのときにいきなり話す。
 それで、相手を動かせる可能性に賭ける。

 というのが、妥当なところなんだろうな。
 ・・・とか色々考えながら、ここのところ、いちばん何度も書き直した。

 実は、このくだりのアーキタイプが、クーリーの牛争いなのだ。
 セリフ書きながら、はじめて気がついたけど。
 ええっと、日本でいう・・・古事記みたいなもんです。

 ダーラの所有するすばらしい赤牛を貸してくれるよう、使いをやって頼むメイヴ。
 けれど、ダーラがその時点で中立の立場にあって赤牛を貸すのにとくに支障もなかったのに対し、いま、兵士アンガスはキーナをとどめおく敵方にある。
 セリフを注意深く練らなければならないのはそこだ。

      *

 先日、夏公演の打ち上げをあらためてやった。
 稽古とは別に時間をとって打ち上げやったの、<エニス>の初演以来かも。
 とても有意義だった。
 学ぶところも知るところもいっぱいあった。

 おもに、近隣のほかの劇団さんたちの活動。
 自分、疎くてあまりチェックしてなくて、団員さんたちが教えてくれる情報が貴重です。
 ほんと、感謝しなくちゃ。
 アンテナ張ってるのと、自分でつくってるのと、両立するの、私にとってはなかなか大変。

 心を開いて色んなものを受け入れて、それをどんどんほかの人にも伝えてく。 
 まさに自分がメディアになってる、そんな人がいる。
 心意気がすごく積極的で、パワーがあって。
 色んないいものと出会ってる気がする。
 見習わなきゃ。

     *

 つくばのゆうワールドという浴場施設? でやってる大衆演劇を、勧めてくれた方がいた。
 前から話は伺ってたんですが、先日はじめて見に行ってみました。
 役者さんたち、着物に島田のかつらなのに、メイクが宝塚風で、何ともふしぎな世界。
 一ヶ月のあいだ昼の部と夜の部と毎日休みなしでこなしているそう。
 すごい、タフな人たちだ。
 飽きさせないテンポのよさですが、1時間の舞台はやはりちょっとお尻痛くなりました。
 でも、演劇を仕事でやるっていうのはこういうことかと、すごく勉強になりました。

 先日見逃したスペース・クロラさんの<ユートピア>の脚本を買ったとかで、貸してくれた、別の団員さんがいた。
 2時間の大舞台だったそう。
 脚本拝読してみると、たいへんな力作です。
 お会いしてお話し伺ってみたくなりました。

     *

 団員さんたちと次作のあり方を話し合う。
 各団員さんたちのやりたい方向性と、やりうるステージングと。

 前作の<エインガス>の路線で、セリフもすべて音源に含めてしまうのがいいという人がいる。
(実は私自身もそれがいちばん、手間も要員もはぶけてやりやすい。)
 他方、セリフをたくさんしゃべりたい人もいる。 

 すべて音源に含めるやり方は、ことがシンプルになるというほかに、音響装置を使って確実に音を届けられるので、野外でやるには適切だ。
 しゃべりのある方式だと、地声で聴かせなきゃいけないので、ハコの中で、しかもとてもコンパクトなハコじゃないと。

 すべて音源に含めるのなら、セリフは少なめで地の文のナレーション中心のほうが適切。
 2バージョンくらい脚本つくっとく?
 とか、いろいろ検討中。

     *

 そんな感じで、新作にとりかかってます。
 目標、9月中に音源まで仕上げて、10月には稽古に入りたい。
 いちおう募ってみます・・・
 共演者・参加者募集中。 
 

  

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2010年09月06日

石垣の花嫁 脚本

石垣の花嫁 脚本             Sep. 2010

●キャスト
 森の神
 森の神の娘キーナ
 森の神の従僕
 キーナの付き添いのレア
 大地の母マグア
 石の神
 石の神の従者
 石の国の兵士(アンガス)
 森の国の民
 石の国の民 

************************************

 森の娘キーナ わがよろこび
 かがやくひとみに ばら色のほお
 
 鹿のごと駆ける みどりのくに
 ふるさとあとに発つ うるわしの花嫁

 la... lalala...

 なれにすべてささげ 心尽くす我を
 なれは憎み滅ぼす 深き水のなか

 わが悲しみの歌は とわに流れ
 去りゆきしその名を いまも呼びつづける

 la... lalala...

(音楽、ナレーション)
 アイルランドの石垣。・・・
 あふれるような緑のなかに、あるいは荒涼とした荒れ野のなかに、国じゅう至るところ、網の目のように巡らされた灰色の石垣の列、それはこの国の田園風景を特徴づけるもののひとつです。
 多くの場合、それらは羊を囲うため、牧草地を区切って築かれています。
 くずれかけた石垣には、しばしばブランブルという、とげのあるブラックベリーの茂みがからみついています。
 夏になると、それらはいたるところいっせいに、びっしりと花を咲かせます。
 淡いピンクがかったその白い花むらが、メドウを吹き渡る風にゆれるさま、それはほんとうに、夢のような美しさです。
 やがて花が散って秋の日が過ぎゆくほど、その青い実はだんだんにルビーのような赤色へ、そして葡萄酒のような深い、甘い黒色に熟してゆきます・・・
 アイルランドじゅう、どこまでも旅をつづけても、ゆけどもゆけども目にするのはその同じ風景です。いつしかそれはまるでくり返される呪文、あるいは、何かの歌のリフレインのようにも思えてきます。
 これは、そんなどこにでもある景色に秘められた、ドラマティックな起源の物語です。

 遠い昔、いにしえの神々の時代、アイルランドは石の神の治める西の石の国と、森の神の治める東の森の国とに二分されていました。
 そのころ、古くからいて、はるかに大きな力をもっていたのは石の神のほうでした。
 アイルランドのほとんど大部分を石の国が占めており、森の国はまだほんの小さな、新興勢力にすぎなかったのです。
 石の国はどこまでも岩ころばかりの荒野がうちつづく、見渡す限り一面灰色一色の世界でした。その都はいまのバレンとよばれる地方にあって、精緻で美しい、石造りの強固な都市でした。
 一方、森の国はあふれるばかり豊かなみどりのうるわしい国でした。力の強大さ、領土の広さでは、とても石の国にかないません。
 けれども森の神には、キーナという美しい一人娘があって、そしてその民のすべては彼を慕っていたので、彼らすべては楽しく、つつがなく暮らしていました。

(音楽、キーナ登場、ダンス。ダンスが終わるタイミングで、上手より父親の森の神、上機嫌で登場。
 キーナ、うれしそうに父親のもとへ駆け寄る。)
<キーナ> お父さま。
<森の神> 調子はどうだね、キーナ?
<キーナ> 生まれたばかりの太陽みたいにすてきな気分よ。
<森の神> いつも楽しそうだな。お前は私の太陽だよ、キーナ。
<キーナ> キーナは、いつまでもお父さまの太陽でいるわ。いつかお婿さんをもらってからも、ずっとね。
<森の神> おやおや、お婿さんには、まだちょっと早いんじゃないかい。
<キーナ> (からかうように)お父さまは、泣くでしょうね。
<森の神> まあ、そう言うな。

(従僕、登場。)
<従僕> ご主人さま。はばかりながら、石の神が、まみえにあがりたいとのことです。
<森の神> (ぎくりとして)あやつが参っているのか?
<従僕> はばかりながら、さようでございます。
<森の神> (独り言)何だ、突然?

(石の神、登場)
<森の神> これはこれは石の神どの、ようこそおいでくださいました。
      こんな遠いところまで、光栄に存じます。
<石の神> わが領土を視察にまわるついでに寄ったのだ。同じアイルランドに暮らすもの同士、たまには顔を合わせようと思ってな。そなたのほうは、なかなか訪ねて来てはくれないからな。
<森の神> なにぶん遠いので、失礼しております。
<石の神> 訪問の記念に、ちょっとした贈り物をしたい。気に入ってくれるといいが。

(石の神の従者、布をかけた贈り物を捧げ持って登場。台の上に置いて、布をとり、一礼して退場。緑と灰色の大理石のチェス盤、およびひと揃いの駒である。)

<森の神> ほう、これはみごとな工芸品だ。石のチェス盤とは珍しい。
<石の神> コネマラの大理石で彫ったものだ。我が国の精髄を極めた職人の手わざを、森の神に敬意を表して。
<森の神> お心遣い、感謝いたす。
<石の神> さあ、せっかくの機会だからひと試合打とうではないか。なかなかこんなことも、めったにあるまい。

(二人、チェス盤をはさんで向かい合って腰を下ろす。従僕が二人に杯を運んでくる。
 二人、チェスをさし、さいしょの試合は森の神が勝つ。)

<石の神> ハッハッハ、勝負あったな。そなた、なかなか強いの。これは面白い。では、次は何か賭けて打とうか。たとえばそれぞれ己れのもっているうちでもっとも価値あるものを、というのはどうかな。
<森の神> それは面白い。承知いたした。
<石の神> よし、それでは私は自分の支配下にあるこの広大な領土のすべてを賭けよう。
<森の神> それでは私も自分のもつ領土のすべてを賭けよう。
<石の神> (笑って)そなたのもつちっぽけな領土が何だというのか、そんなものは賭けるほどにも値しない。だがそなたの娘キーナは若く、美しい。私はそなたが彼女に、自分の王国全体よりも高い価値を見出していることを知っている。そなたの娘を賭けるがよい。
(森の神、不意を突かれてしばし固まる。追い詰められた表情で身じろぎ。でも今さらあとに引けなくなって)
<森の神> それでは私は自分の娘を賭けよう。

(二人、勝負に及ぶ。二人とも真剣である。だんだんに森の神の方が形勢が悪くなり、さいごの方ではひと指しごとに立ち上がって歩きまわる。)

<石の神> (しずかに)よし・・・詰みだ。 
(森の神、蒼ざめて言葉を失う)
<石の神> (しずかに、威厳をもって)いい勝負だった。それではお前の娘を渡しなさい。彼女は私のただひとりの妻となり、私は命の日の限り、心を尽くしてこれを大切にするだろう。
 私はこれから戻って、宴の準備をしよう。国を挙げて花嫁を迎えることになろう。婚礼は、一週間後だ。

(石の神、退場。森の神、立ち上がって見送ったあと、椅子に戻り、崩れるように倒れこむ。頭を抱える。
 キーナが入ってくる。肩を落としたようすで、立ち尽くしたまま父親を見つめる。長い沈黙。)
<森の神>(頭を抱えたまま)私は最低の男だ。・・・ああ、私は死んだ方がましだ。
<キーナ>(父親のもとに近づき、膝まづいて、両手をとる)
      お父さまのせいではありません。・・・勝負事とはそのようなもの。何が起こって誰が勝つことになるか、誰にも分かりません。お父さまは、ただ運が悪かっただけ。キーナは、大丈夫です。それが運命なら、受け入れるまでのこと。でも、キーナには思えるのです。この勝負は、まだ終わっていません。それが運命なら、またお会いできる日もあるでしょう。キーナの心はいつの日もお父さまとともにあります。だからお父さまも心を強く持って、キーナを信じていてください。 

(森の神、悲嘆に暮れたようすで退場。キーナ、鏡の前でヴェールとマントをつける。支度をととのえたあと、きっぱりとしたようすで鏡の中の自分を見つめ、独り言)
<キーナ> いえ! このままでは終わらない。決して! 終わるもんですか。
      必ずこの手で活路を切り拓いてみせる、お父さまの名誉と自分の誇りとを、誓ってこの手に取り戻して見せる!・・・

(一行、出発。花嫁姿のキーナ、お付きの者に付き添われて古代風な馬車に乗りこむ。引いてるのは馬でなくてもよい。なにか緑っぽい架空の生きものでも。)

       *

(石の国の荒野。舞台真ん中に馬車。ナレーション)
 旅の途上、一行が岩山の陰に張った宿営をたたみ、旅をつづけようと出発しかけたときのことでした。夜明け、岩々は青紫色に沈み、地平の果てはかすむような淡いすもも色です。

<お付きの者> 姫さま! そろそろ出発します。車にお乗りください。
<キーナ> ああ、都を出てもう何日になるかしら?
<お付きの者> そうですね、5日、いや、6日になりましょうか。
<キーナ> もう百日もこうして旅しているような気がするわ。
      全く、なんていう国なの、ここは。話には聞いていたけど、ほんとに草一本生えてない!・・・ ゆけどもゆけども見渡す限り、灰色一色の世界!・・・ こんなところじゃ、息もできない!・・・ 月に嫁入りした方がましだわ!・・・ ああ、ぞっとする!・・・ あ・・・あれは何?

(マグア、登場。杖をつき、腰をかがめて重々しい感じで)
<マグア> お前は森の神の娘キーナか。
<キーナ> 私はそうだ。
<マグア> 私は大地の母マグアである。聞きなさい。この国は今は石の神の支配下にあるが、遠からずお前たち森の民のものになる。時を待ちなさい。お前は石の神を打ち倒す者となるだろう。
<キーナ> 私が? 石の神を打ち倒す?
<マグア> そうだ。お前は女の身で、のちの世に残る英雄となるのだ。石の神の国は滅びるだろう。それはもう決まったことで、運命なのだ。だから何も不安に思うことはない。お前たちにとって、物事はさいごには必ずうまくいく。
 ・・・だが、急いではいけない。じっくりと計画を練り、辛抱強く待ちなさい。色々と辛いこと、耐えがたいこともあるだろう。自分の心をおもてに出してはいけない。ここぞというときまで、羊のようにおとなしく、従順でありなさい。そうすればきっとうまくいく。
<キーナ> (当惑しながらも、マグアの言葉を噛みしめたあと、少し間をおいて)分かりました。やってみます。
<マグア> 私はお前に贈り物をしよう。この樫の木の実、この中には森のすべての力が宿っている。この小さい鳥の卵、この中には空のすべての力が宿っている。この白い貝殻、この中には水の力のすべてが宿っている。大切に持っておきなさい。これらはいざというとき、大いに役に立つだろう。
<キーナ> ありがとう。大切に持っておきます。

(一行、馬車に乗りこんで出発。その姿を見送ったあと、マグア、ゆっくりと立ち去る。)

       *

(石の国の都。音楽。石の神、正装して一行を出迎える。キーナが降り立つと、丁重に膝まづき、手をとって口づける。)
<石の神> よくいらした、全アイルランドのなかでもっとも美しく、愛らしい花嫁、森の神の娘キーナよ。今日ここにそなたを迎えるのは至上の喜び。そなたは私のただひとりの妻となり、私は命の日の限り、心を尽くしてそなたを大切にしよう。
(婚礼の宴、音楽、ダンス。そのあと、全員退場)

(同じ日の晩。城の門の前で番にあたる兵士。キーナ、駆けてきて兵士の傍らを通り過ぎる。)
<兵士> どうされましたか、奥方?
(キーナ、兵士の方にちょっと目を向けるが、答えずに扉を押し開けようとする。扉は開かない。)
<キーナ> ・・・鍵がかかってる。・・・
<兵士> ええ、外はもう暗いし、この都は大きくて、危険です。ひとりで出歩かれてもしものことがあったら大変ですから。
<キーナ> 開けて! 息がつまりそうなの。ちょっと星を眺めたいだけよ。星空だけは、私のふるさとと同じだから。
<兵士> 星なら、お部屋の窓からでも眺められます。どうぞ、お部屋へお戻りください。
<キーナ> とにかく、開けて!
<兵士> それはできません。ご主人から厳重な命令を受けています。
<キーナ> 朝になったら、出してくれるの?
<兵士> (だまって首をふる)
<キーナ> ・・・一生この中で閉じこめられて暮らせっていうの?
<兵士> (肩をすくめ、手を広げる)
<キーナ> (Goddamnit!... 罵りの言葉を吐きかけるが、すんでのところで思いとどまって、身ぶりだけ)
<兵士> (なだめるように)・・・あなたは大切な方だからです。
<キーナ> (兵士の方を振り返って、恨みの表情をこめ、何も言わずに立ち去る)

       *

(数年後、同じ場所。番にあたる兵士。キーナ、淋しそうな、ふてくされたようすで座っている)

<兵士> キーナさま。淋しいお気もちは分かります。心細いお気もちも分かります。こちらの暮らしになじむのは大変なことでしょう。 
 でも、キーナさまがこの国へいらしてから、もう何年になるでしょう。そうやっていつまでも心を閉ざしていても、奥方にとって何もいいことはありません。奥方は若く、お美しい。しかも石の神の妃、全アイルランドでもっとも輝かしい地位にあるお方です。どうぞ、ご自分が手にされているものにもう少し目を向けて、人生を楽しむようにされては。
<キーナ> 人生ですって、楽しむですって。こんなふうに来る日もとじこめられて、自分の国から引き離されて、灰色一色の世界で、お日さまの光をあびることも許されず、おまけに夫はあんな醜いおいぼれで、それで人生を楽しむことができるなんて、あなた、ほんとに思ってるの?
<兵士> ・・・。
<キーナ> ここには人生なんてないわ、ここにあるのは人生じゃない、生きるっていうのはそんなものじゃない・・・ 生きるっていうのは、心の向くまま、みどりの森を鹿のように駆けまわること、冷たい水晶の泉で水浴びすること、木漏れ日のまだらになって降り注ぐ野原に寝転がってうたたねすること・・・ 鳥たち、動物たち、森のすべての生きものたち!・・・ 木の匂い、群れ咲く花々の色、梢のざわめき、そのすべてを体ぜんたいで感じること!・・・ ああ、あなたには想像もつかないでしょうね、まるで・・・ (心高ぶって泣きだす)
<兵士> (つぶやくように)あなたのお国は、ほんとにすばらしいところらしい。できることなら、いちど訪ねてみたいものだ。
<キーナ> できることなら、いちどお招きしたいものです。・・・

(石の神、登場。)
<石の神> キーナ。私の旅行用のマントを出してくれるよう、レアに言ってくれないか。
<キーナ> はい、ただいま。・・・わが主よ、お出かけですか。
<石の神> この国の神々の集まりがあって、出かけなければならぬ。すまないが何日か都を留守にする、よろしく頼む。(兵士に向かって)アンガス、妻に何事も起こらぬよう、くれぐれも気をつけてくれ。
<兵士> (最敬礼して)仰せのとおりに。
(レア、石の神にマントを着せかける。兵士、門を開け、石の神、出ていく。)
<一同> お気をつけて行ってらっしゃいませ。

(キーナ、いちど退場、ほどなく、マントを着て、もういちど登場。)
<兵士> キーナさま?・・・
<キーナ> ええ、私も出かけます。このマントを着るのは何年ぶりになるかしら、この国に嫁入りに来たとき以来ね。
<兵士> しかし、キーナさま・・・
<キーナ> アンガス、あなたは私によくしてくれました。だから私はあなたに、とても重要なことをお話ししましょう。よくお聞きなさい。あなたの仕える主人の栄光は尽きようとしています。この国は遠からず私たち森の民のものとなる定めにあるのです。いま、私の側について、私が逃げるのを助け、石の神を打ち倒すのに力を貸すなら、私の父はやがて全土にわたるその王国であなたにもっとも高い地位を与え、また私をも与えるでしょう。
<兵士> (ショックを受けてしばし言葉を失い、ついでキーナの両肩に手を置いて)奥方、お気は確かですか。そのようなことを、夢にもお考えになってはいけません。
<キーナ> いいえ、私は考えています。あなたもどうか、よくお考えなさい。私はこれを、自分の考えで言っているのではありません。この国へ向かう旅の途中で、私はこのことを大地の母マグアから告げられたのです。いま目に見えるものだけで判断してはなりません。この王国は、沈みゆく船のようなもの。まもなく、歴史は大きく変わります。それはもう決まったことです。運命なのです! 
<兵士> ・・・。
<キーナ> 私は知っていた、いつかはチャンスが訪れると。それで私はじっと黙って待ちつづけていたのです。私には分かります、今がそのときです! 私といっしょに、新しい船に乗りこみましょう。私の生まれ育った、私の国へおいでなさい。私のこの手をとって、生きるというのがどういうことか知りなさい!
(兵士、ゆっくりと膝を折れて床につき、キーナの手をとって、口づけする。2秒おいてキーナ、その手をつかみ、ぐいっと立たせて、力強い口調で)
<キーナ> さあ、一刻も早く発つのです!!
(音楽、扉が開けられ、二人は手に手をとって駆け出してゆく)

(ナレーション)キーナと若者が城を逃げ出して、森の国めざして急いでいると、戻ってきた石の神が気づいて、彼らふたりを追いかけてきました。
そのゆえに大地は揺れ、激動し、いくつもの山が割れて地中深く裂け目が走りました。

<兵士> (後ろを振り向いて)まずい、気づかれた!・・・ 追ってくるぞ!
<キーナ> 大丈夫よ、心配しないで。さあ、いよいよこれが役に立つ時が来たわ・・・ ご覧なさい!

(ナレーション)石の神が追いついてきたのを見ると、キーナは懐からしなびた木の実を取り出して投げつけました。
すると木の実は割れて、そこからありとあらゆる種類の草木が生じ、びっしりとからまりあった森となって石の神のゆく手を阻みました。
彼が手こずっているあいだにふたりは遠くへ逃げおおせました。

<兵士> (後ろを振り向いて)抜け出したようだ!・・・ また追いついてくる!
<キーナ> だいぶ手こずらせたわね。大丈夫よ、こちらにはまだ奥の手があるわ。見ておいでなさい!

(ナレーション)森を抜け出した石の神がふたたび追いついてくるのを見ると、キーナは懐から空色の小さい卵を取り出して投げつけました。
すると卵は割れて、そこからありとあらゆる種類の鳥の大群が現れ、その幾千という翼が激しい風あらしを巻きおこして、石の神のゆく手を阻みました。そのあいだにふたりはさらに遠くへ逃げおおせました。

<兵士> (後ろを振り向いて)だめだ!・・・持ち直した。やってくるぞ!・・・
<キーナ> しつこいおいぼれだわ。さいごの手段よ。身の程を知りなさい!

(ナレーション)石の神がみたび追いついてくるのを見ると、キーナは懐から白い、まるい貝殻を取り出して投げつけました。
すると貝殻は割れて、そこから大量の水が流れ出し、深く大きな湖となって石の神のゆく手を阻みました。
石の神は渡りきろうとしたが、湖はあまりに深く、激しくうずまく水の流れにのみこまれてどうすることもできなかったのです。

(さいごの瞬間、あふれ渦巻く大水の中から、石の神は必死に腕をのばし、岸の大岩にとりつこうとする。それを見てキーナ、その大岩のもとへ歩み寄る)

<キーナ> (兵士に)この岩を転がし落とすのを手伝ってください。
(兵士、おびえた表情をして、たじろぐ。それから意を決してそのもとへゆき、岩に手をかける)
<石の神> (必死の面持ちで)私はお前にどんな間違ったことをしたか。
<キーナ> (平然と)何も。
<石の神> では、お前はなぜ私を憎んで、殺そうとするのか。
<キーナ> お前は冷たく、年老いていて、醜い。
<石の神> 私が冷たく、年老いていて、醜いというので、お前は私を殺そうとするのか。
<キーナ> そうだ。
<石の神> このゆえに、私は滅びゆくであろう。けれどもお前を探し求める私の心が滅びることはない・・・ それは全土をゆきめぐり、この国が森の神のものとなってなお、すみずみにまでのびた石垣となって、とこしえに嘆きつづけるであろう。

(キーナ、傍らの兵士にうなづいて見せる。)
(ナレーション)こうして二人は、力をあわせてその大岩を、石の神もろともさかまく大水のなかへ転がし落としました。
(とどろく激しい水音と絶望の叫びが長く長く尾を引いて、こだましながら響きわたる・・・)

       *
 
(再びあかるく、おだやかな森の情景。木漏れ日がまだらになって降りそそぐなか、喜びの凱旋行列、森の民が寄り集って、歓呼の叫びをあげる、花輪を編んで二人にかける、誰も彼も花々や、みどりの枝で身を飾っている・・・ 花かんむりの下でキーナの頬は上気していきいきとかがやき、傍らの兵士はそのようすに感嘆して眺めやる、そして民のすべてもまた。・・・
 森の神は盛装して出迎える。キーナ、駆け寄って抱きつく。)

<キーナ> お父さま!!
<森の神> キーナ、最愛の娘よ。よく戻った。よくやった。・・・よくやった。
<キーナ> キーナは分かってたわ。分かってた・・・さいごには必ずこうなるって。さいごには必ずこっちが勝つって。
<森の神> キーナ。いとしい娘よ。(改めて娘の前に膝まづく)お前は私には全くもったいないくらい、賢くて、勇敢で、りっぱな女だ。どうかこの父親を許してくれるだろうか、私の犯した愚かなあやまちを、どうか悪く思わないでくれるだろうか。
<キーナ> (晴れやかに)大切なお父さま! 私の命はあなたのもの、私の命の日々もまたあなたのものです。どうしてあなたのことを悪く思ったりするでしょうか。(父親の手をとって立たせる)
<森の神> (一同のほうを向いて)さあ、歌だ、踊りだ! 祝いの宴だ!

(歓呼の叫び、音楽、ダンス。キーナ、さいしょにアンガスと踊り、次いで父親と踊る。一同、踊りながら退場、音楽や歓声、フェードアウト。)

(宴の席を抜け出してきた森の神とキーナ、連れだって歩いている。
 夏の日の夕暮れどき、うすずみの雲のながくたなびき、金色の西日の斜めにさしてうすもやにかすむ、夢のような情景。風にさざめく木立の陰をぬい、かなたを遠望するあの丘の上まで・・・ 王者の衣が長く裾をひいてさらさらとひだを立て、そのながい影が草の上に落ちる・・・)

<キーナ> ああ・・・帰ってきたわ。昔と何も変わっていない・・・
<森の神> 昔もよく、こうしていっしょに散歩したもんだな。きのうのことのようだ・・・
<キーナ> ええ、きのうのことのよう・・・でも、あれから百年たっているような気もするわ。
<森の神> 森は、変わらないよ。何百年たとうともね。
(キーナ、うなづく。二人、丘の上に立ち、はるかに広がる森を眺め渡す)
<キーナ> ああ、四方の果てまで広がるこの樹海! これが私の国、そよぐこずえ、かぐわしい香り、久しく望んでついに得た故郷の土!・・・ これが生きるということだわ!・・・

(はじめに森の神、ついでキーナも加わり、最終的にすべての森の生きものたちが加わって歌う)

 みどりの森の うつくしきかな
 その力もて その偉大なる力もて
 汝のおもて あめつちにみち
 そのとこしえに 栄えあらん

(音楽、ナレーション)
 そのほめうたが、ことほぎの歌が流れいづるにつれて、大地には精気あふれ、森は枝をのばし、葉を広げて、さらにさらに拡がりゆきて、ついには石の荒野をすっかり飲み尽くすに至るのでした。
 こうしてアイルランドぜんたいは、森の神の領土となりました。森の神は兵士アンガスにその王国の中でもっとも高い地位を与え、またその娘キーナとの結婚をも許しました。石の神とその王国は滅び、いまでは西アイルランドのほんの一部、バレンと呼ばれる荒野の片隅に、その面影をとどめるばかりです。

 それでもなお、去っていった石の神の悲しみの歌が消えることはありませんでした。それは全土をゆきめぐり、とこしえに嘆きつづける定めにありました。このゆえに、今なお、もっともみどりゆたかな土地にまでくまなくのびた石垣が、その悲しみの調べを奏でつづけているのです。
 アイルランドの全土を覆う石垣の網目、それは滅び去っていった石の神の、今もうごめく指先なのです。その牧歌的な風景が、どこかに不気味な暗さを感じさせるのはそのためなのです。
 夏の日の午後、青黒い雲むらが湧き上がってはざあっと打ちつける、はげしい雨風のまたたくまにゆきすぎて、ふたたび日の光にかがやきわたる野へ、出ていってご覧なさい・・・ 足の向くまま、四方に広がるメドウを見わたすとき、かなしくゆらめいてどこまでもつづくその石垣のえがくリズムにのせて、遠くかすかに、たえまなくひびくその調べを、ひとは今もその耳にはっきりと聴くでしょう・・・
 美しい娘キーナ、お前は私を裏切った・・・私の歌はとこしえに流れ・・・去っていったお前を求め・・・お前の名を呼びつづける・・・ 

 なれにすべてささげ 心尽くす我を
 なれは憎み滅ぼす 深き水のなか

 わが悲しみの歌は とわに流れ
 去りゆきしその名を いまも呼びつづける

 la... lalala...
  

Posted by 中島迂生 at 05:31Comments(0)脚本