2010年04月16日
第2作<エインガスの砦>つくば初演備忘1
自分用のメモ兼ねていろいろ書くので、興味ある方は読んでください。
・脚本
目下、ひとつのやり方に固執するつもりはなくて、色んなやり方を試してみようと思っています。
今回は、語り・セリフともすべてナレーションで入れてしまいました。
ほとんど、原作の<普及版>のほうを敬体に直しただけのものです。
はじめは、前作のようにセリフのところは役者がしゃべる予定だったのですが、ぎりぎりまで配役が決まらず、けっきょくおじいさんの役を女性がやることになったりしたので、それで生声ではあまりにも変ですから、直前になってセリフのところだけ追加でレコーディングしたのです。
結果としてはよかったと思います。
生声で野外だとどうしても聴きとりづらかったりするので。
とくに私など、いくら怒鳴ってもとても客席の端まで届かなかったでしょうし。
ともかく、ちゃんと聞こえることが第一です。
・音楽
今回は、基本すべて自分で書きました。
例外は Cliffs of Moher で、みんな知ってる曲だし、モハーの崖の話をやるのにこの曲を外すわけにはいかないだろうと思って。トラディッショナルだから著作権的にもあまり問題ないはずです。
ぜんぶ自分で弾いてます。あ、吹いてもいます。
キーボード
エインガスのテーマ(アコの音。さいしょとさいごでみんなで歌ってた曲、女性たち全員で踊ってた曲)と、ユーナのテーマ(ストリングス、スロウストリングス、ハープ。白い方のドレスで、ソロで踊ってた曲)。
色んな音の出るキーボードを、このために一台入手しました。
(泥酔会で Truth を弾くのにも使いました。笑)
とくにユーナのほうはけっこう難しくて、レコーディングのために必死に練習したものの、今はもう弾けません。笑)
笛
ティンホイッスルです。D管で、Cliffs of Moher。
この曲は、どうしてもティンホイッスルなのですよ。私のなかで。
ケヴィン・バークのフィドルバージョンがいくらすばらしくてもですね。
なんでだろ? たぶん、カモメの鳴き声だからです。
あの風景のなかに響く音なら。
で、生まれて初めて吹いて2日目にして音入れしました。
無謀だ・・・。いや、分かってます。
で、一か所、自分でどうも変だなと思いながら、どうやって直したらいいか分からないところがあって。
ひとに聞かせたら、やっぱり変だと言われまして。
オクターヴ高いところをどうやって出すか分からなかったんです。(それでホイッスル吹くなって。)
で、公演2日前にして、笛音源を録り直すはめになりました。
・・・吹くのはいいのだけど、編集作業がたいへん。
フィドル
マノアのテーマ(赤いドレスで踊ってた曲)。
わりと型通りなリールの曲になってます。
フィドルは、いつまでたってもいちばん苦手です。難しい楽器だわ~。
だったらやめとけばいいものですが、私の中で、あのキャラはどうしてもフィドルなのです。
自分でもぜんぜん納得いってないのですが、何度録り直してもあれ以上にはならなくて。
劇には、フィドルやってる人たちも見に来てくださることだろうし、あんなのをさらしていいものか、直前まで悩みました。
とりあえず金子さんに聞かせて、ダメ出しされたらまた考えようと思いまして。
金子さんという、かつてとても心に響くフィドルを弾いてた人がいるんですが。
聞かせたら、「とくに問題ないんじゃないの」と言われました。
・・・ほんとかよ。耳大丈夫かしらこの人。
でも、上手い人に弾かせたらふつうにもっとうまく弾くだろうけど、これはこれで味があっていい的なことを言われました。
なんか、いちばん高いところが心もちちょっと低めなんだけど、それがいいそうです。
単に指が届いていないだけだと思うけど。
というか、私自身が低めの音が好きなせいかも。
そういえば、あんなすごいフィドル弾く人なのに、それと口が悪いのは私がいちばんよく知ってますが、なぜか私の弾くフィドルをけなされた覚えはあんまりありません。
「しかしなんか、悪魔のフィドルって感じだな、ハッハッハ」と言われて、感激しました。
それって最高の褒め言葉じゃないでしょうか。
「あったかいフィドル」もいいし、「繊細なフィドル」もいいですが、最高なのはやっぱり「悪魔のフィドル」でしょう。
だってもともとそういう楽器ですもん。
アイルランドならフィドル、スコットランドならバグパイプ、ブルターニュなら風琴とかでしょうかね。
荒野で悪魔がかき鳴らして人をたぶらかしたとかいう話が、たしかジョルジュ・サンドが集めた民間伝承のなかにもあったと思う。
民族楽器ってとかくそういう背景をもってるのです。
まぁ、それはキリスト教の側から見るからそういうことになるのですがね。
そういうものは必然的に、キリスト教以前の土着宗教とかと結びついていますから。
人を唆して淫行に誘い込むというので教会が演奏を禁じたとか、そんな話がいくらでもあります。
そうそう、だからあの場面でフィドルなわけです。
ギター
Cliffs of Moher と上記のフィドルの伴奏(それぞれ、アルペジオとストローク)。
だてに長年アイリッシュギターを聴いてきたんじゃないつもり。
コードを半小節ずらして変拍子っぽくしてみたり、ふつうならマイナーコードだろっていうところであえてメジャーをもってきたり、けっこうそれっぽい感じになってると思います。
(あ、でも両方ともレギュラーで弾いてます。私は基本、ダドガットは使いません。)
とくにフィドルの伴奏のストロークは、けっこう会心の作。
私、ほんとに最近まで、ミュートしながらストロークというのができなかったのです。
ミュートができないと、ジャカジャカむだにうるさいし、垢ぬけしないじゃないですか。
トミー・ピープルズの伴奏をやってるミホ・ダナーのギターみたいな、乾いて控え目な音で、かつ要所要所でかっこよくエッジを入れるみたいのがやりたくて、でもどうしたらあんなふうにできるのか分からなくて、ずーっと試行錯誤でいろいろやってた。
で、「あ、ちょっと感覚つかんだかも!」とはじめて思ったのがこれ入れたときなのです。
基本、リールもそのダンスも伝統的には律儀なタテのりですが、このストロークのおかげで、曲自体もダンスも思いきりヨコのりになっています。そういうのは最近よくあります。ハイ、確信犯です。・・・念のため。
で、その発展形がこのところよくやってた長淵の Don't cry のギターです。
実は同じリズムなのだ。笑)
ピアノ
ナレーションのBGM全般と、あえて言うなら結婚式での踊り・・・あれはあまり作りこんでなくて、適当ですが。
今回は、基本、ピアノはぜんぶ即興です。
「BGM用の曲を書こう」と思って書くと、結局つまんない曲になることが多いなと思って。
つまんないのに練習するのにけっこう時間かかりますし。
で、今回はちょっと即興でやってみようと思って、やってみた。
録音機を回しておいて、物語の場面場面を思い浮かべながら適当にどんどん弾いていって、あとで適当なところを取ってナレーションと重ねました。
なので、練習にはぜんぜん時間がかかっていません。ただ、二度と同じには弾けないけど。
というか、弾きつづけるのはぜんぜん苦でないので、音源が大量にできすぎて、あとで聞き返してどこを取るか選ぶ作業が大変だった。
でも、決まった曲を弾くよりずっと自由に弾けてると思う。
とくに、エインガスがいらいらしながら海の上を駆けまわってるシーンだとか、大変動で大地が海の中へ崩れ落ちていくシーンだとか、あの辺はただ適当に鍵盤をぶったたいてるだけなんですが、なかなか感じが出ていて、へたな曲よりよかったんじゃないかなと思います。
歌
前作では歌ものを6曲書いたんですが、あれはいかんせん書きすぎだった。
音入れがものすごく大変だったので、今回はテーマ曲1曲のみにしました。
でも、みんななかなか覚えてくれなくて、待ってたら結局直前になった。
って、ほとんどの人は結局さいごまで覚えてくれなかったし。
実質3人くらいの声を重ねるはめになった。
まぁ、それでもみんな、やってくれてるだけで感謝しなくちゃならない状況です。
音源編集はすべて、前作のときと同じ Audacity というわりと単純で使いやすいソフトを使ったのですが、曲の頭をそろえる作業とか、調子の外れてる部分をコリコリ削って目立たなくしたりとかを、いちいち手作業でやるしかないので、それがすっごい大変でした。
フォトショップでレイヤーを重ねるみたいに、曲の頭を自動的に検知してそろえるみたいな機能があったらいいのにな。
・ダンス
今回はみんなでひとつ、ソロでふたつ踊りました。
ソロのふたつの方は、けっこう直前まで振付のこまかいところがしっくりこなくて、何度も何度も練り直した。
前回、ダンスをみんなに覚えてもらうのがあまりに大変だったからソロでやってしまったんですが、それはそれで、ソロとなると色々難しいことをやりたくなって、どんどん自分でハードルを上げる結果になった。
客観的に見たらたぶん全然だめだし、自分でも納得いってない部分が多いですが、とりあえず、よくも悪くもいまの自分。
やってくなかでいろいろ分かってきた。
リズムっていうのは結局足のステップなんだな、とか。
客観的に見てうまくならなくてもいい。
何をやっても私、みたいな次元に達せられたらいい。
今回はわりとまじめにバレエ・ストレッチのクラスに通って基本的な体の伸ばし方やほぐし方を教わりました。
毎日ストレッチやってるとすごい時間を食うんですが、さすがに体は調子いいです。
腰とか肩も、あんまり凝らなくて。
・・・というか、よかったです。
一週間休むと、たちまち戻っちゃう。
しかし、ダンスってピアノ以上に練習場所には悩みますな。
基本、市の公共施設を借りて練習してましたが、毎日というわけにいかないし、夜中にこっそり駐車場で練習してたりとか。けっこう苦労しました。
みんなで踊るものについては、前回、みんなを何度も集めて練習するのがあまりにも大変だったので、今回は、先に自分が踊ってる動画を撮ってユーチューブにアップしていただいて(ご協力いただいた方々ありがとうございます)、みんなにはそれを見て覚えてもらうようにした。
・・・しかし、実はそれもあんまりスムーズにはいかなかった。
URLをみんなに回して、「皆さんこれ見て個人練しといてくださいねー」って言っておいてから臨んだ全体練習で、当日来てはじめて「いまうちのパソコン壊れててユーチューブ見れなくて・・・」って言われたり。
って、ユーチューブなんてケータイからだって見れるんだから早く言ってよっ!!
それより大変だったのは、パソコンもケータイもない人で、仕方ないから市内で無料でインターネット見られる場所を探すところから始めて、図書館で見られることが分かって、連れて行ったらカード作ってないと言われ、じゃあ作りましょうと言ったら身分証明書がなくて作れないとか・・・ それからまたインターネットの見方を一から説明して・・・ やー、思いだすだに疲れる・・・ まぁ、いろいろ大変でした。
面白かったのは、海の娘ユーナ(白いドレスの方)の優雅なダンスでは、みんなしーんとして見てただけだったのに、悪役のマノア(赤いドレスの方)の激しいダンスのあとでは拍手をいただいたこと。
やっぱり、人間、悪役の方が心に訴えるんでしょうか。それとも、単に元気に跳ねまわっていたせい? 笑)
ただ、悪役といっても、悪気があったわけではないと思うんですよ。
これはけっこう重要な点だと思うんですが。
こういう話に出てくる人たち、マノアにしても、前作の水の精エルダにしてもそうなんですけど。
彼女たちのせいで、砦が崩れたり、領土が海に沈んでしまったり、人が死んでしまったりするわけなんですが、本人たちに悪意はない。
マノアにしても、わざと物事をぶち壊しにしようと思ってエインガスを誘惑したわけではないと思うのです。
彼女はただ、エインガスが面白くなさそうにしているのを見て、何の気なしに声をかけただけなのだと思う。
エインガスが結婚してたことさえ、知らなかったんじゃないですかね、たぶん。
平気でひどいことをやってのけるのだけど、全然悪気はない。
これもある意味、ひとつのイノセンスの形。
悪を知らない。
悪という概念がないんですね。
それってキリスト教以前の意識のあり方の大きな特徴です。
今さら私が言うまでもないですがね。
それはそれで問題なく、まぁ問題なくはないかもしれないけど、みんなそういうものだと思って、それなりに世界が機能してたのに。
そこにへたな道徳観を持ち込んで、お前らのやってることは悪だとか決めつけるから、物事がごたごたしてくるんです。
<デーモン>の語源はギリシャ語のダイモーンですが、それは本来悪でも善でもない、人を超えた力ある霊的な存在を指す言葉。
あとから乗りこんできたキリスト教の側から見るから、それが悪魔になっちゃうわけだ。
まったく失礼な話です。
ギリシャ語で神はデウスで、それがラテン語にも入ってる。
フランス語でもデューですね。
あんまり誰も言わないけど、このデウスの<デ>のとこと、ダイモーンの<ダイ>のところは明らかに、語源的に同じものだと私は思う。
だって辻褄があってるもの。
神って、人を超えた力ある霊的な存在でしょう。
そして、ギリシャの神々って日本の八百万の神様みたいなもので、あんまり正義がどうのこうのとかめんどうなことは言いません。
人間より強かったり不滅だったりするから神なんであって、とくに正しいからとか善だからとかいうことではなさそうだ。
すると、やはり悪でも善でもないといえる。
神と悪魔が同じ語源だとしたら面白いと思いません?
まぁ、もちろんギリシャ語だからそうなんであって、ヘブライ語では違うけれど。
その、古い異教の力、悪でも善でもない人を超えた力がアイルランドにもまだ宿っている。
ひとけのない荒野をさまよって、その力を強烈に感じる・・・
私に物語を豊かに与えて、書かせてくれてるのはその同じ力なのです。
よし、なんかひと区切りついたので今日はこのへんで。
つづく~