2014年01月29日
シュザンヌ
これは19くらいのとき高原を旅行して、ちょっと堀辰雄的な気分になったときに。
詞華集カフェ・ジュヌヴィエーヴ 8
シュザンヌ
<深窓の令嬢>なんてことばを知ったのは、もちろんずっと大きくなってからのことだった。けれど、そのことばを知ったとき、彼はどうしたってあの少女のことを思い出さないわけにはいなかったのだ--まばゆい宝石のように光を放つ、十四才の夏。
ほんとを言うと、あの子はいつでも深窓の内側におしとやかにとじこもっていたわけではなかった。人間だったらだれも、そんなにいつも窓の中におさまっていられるもんじゃない。でも、今思うとやっぱり、あの子はいつも窓の向こうにいた--厚い追憶のガラスをはめた窓の向こう側に。
高原の夏は早い。
少年がいつもの橋を木の枝でカンカンたたきながら渡ると、両岸にはもう、野ばらやにせアカシアの白い花房がいっぱいに咲き乱れている。
長い休みを前にして、少年は豊かな気持ちだった。--始まる前がいちばん楽しんだよな。
少年はこの夏、家族に相談もしないで勝手に新聞配達を始めた。母親はそれを知ってひどく怒った。
「仕事だったらうちでやることがいくらでもあるでしょうに。何だってわざわざよけいなことをするんだか・・・」
少年のうちは旅館を営んでいる。このへんのおおかたのうちがそうなのだ。旅館の子には、旅館を手伝うことが当然のこととして期待されている。うちでやることは、いくらだってある。
少年は、ただ働きには、もううんざりだ。お金のためじゃない。仕事をしただけ、それが形として残るようなことをしてみたかった。
夜明けの光が東の空をすもも色に染めるころ、少年は自転車を引き出して仕事に出掛ける。少年の受け持ちは街のほうではなく、森の中に散在する別荘村だ。 この辺には、外国人も多い。表札がローマ字で出ているところには、英字新聞を投げ入れてゆく。
朝まだき、やかましいくらいの鳥のさえずり。草を踏みしめてゆけば、冷たいつゆに足はびっしょりぬれる。森は木のやにと、きのこと、洗われたばかりのみどりの匂い。
午後になると少年は魚釣りに出かける。行く先は近くの湖だ。釣り糸を垂れながらぼんやり考えにふけっていたりするので大して魚は釣れなかったが、ひんやりした木かげにひっくり返っているのはいい気持ちだった。
湖へぬける道から少し外れて、古風な石造りの大きな館がたっている。広い庭は荒れほうだい、ずいぶん前からだれも住んでいない。みんなはそこを<お屋敷>と呼んでいる。行きも帰りも、<お屋敷>のたたずまいを何となく眺めながら、少年は通りすぎる。その淋しげなようすを見るとどういうわけか、妙に心が落ち着くのだ。で、何かおもしろくないことがあってむしゃくしゃするときもここへ来て、しばらく眺めていたりする。
少年には成人した姉がいて、それで二人はしょっちゅうけんかをする。
たいてい悪いのは少年の方で、この日もそうだった。数学の問題を教えてくれと頼んでおいて、いくら説明されても分からないのに腹を立て、
「姉ちゃんは人に説明するのが下手なんだよ」
と口走ってしまう。それからひとしきりやりあったあと、二人はしばらく、口をきかない。
静かな小雨が降っている。少年はどうにも気が晴れなくて、ふらっとうちを出ると、釣りにいくいつもの道をぶらぶら歩きだす。
気がつくと彼は<お屋敷>の見えるところに来ている。いつもはただ道から眺めるだけで、近くまで行ったことはない。
少年は茂みをかきわけながら辺りを探検してみる。垣根にクリーム色のばらが咲いているのを見つけて彼は驚く。<お屋敷>のいくつもある窓は、重厚な感じの装飾が施され、風雨にさらされて美しかった。
少年は裏庭の柳の木にもたれかかって二階の窓を見上げた。と、彼は心臓がとまるかと思った。窓の中に人の顔が見えたのだ。
少女だった。古風な白いレースの服を着、頭にも白いレースを飾って、豊かな黒髪が肩まで波打っている。黒い大きな瞳は思いにふけるように、窓の外をしずかに見つめている。暗い室内を背景に、雨粒にふちどられた窓ガラス。
少年の目は、釘づけになったまま動かない。それはまるで一枚の絵だった。偉大な画家が、己れの持てるすべてを注ぎこんで描き上げたマスターピースだ。
少女はしばらくの間そうしていたが、やがてすっとカーテンをひいて姿を消した。
少年は、魔法を解かれたように我に返る。今のはきっと、ほんとじゃない、と彼は思う。けれど、だとしたら何だったんだ?
<お屋敷>は何事もなかったように、雨にぬれながらひっそりとたっている・・・
それから二、三日して、少年は自分の区域の中で、新たに新聞を届けるべき住所を渡される。それは何と<お屋敷>だった。<お屋敷>に本当に人が入ったのだ。
わずか数日で<お屋敷>はずいぶん変わっていた。芝生はきれいに刈られ、玄関までの道も整備されて、車庫には黒いメルセデスがとめられている。表札のローマ字には、Uにちょんちょんのついた変な字がまじっていて、少年には読めない。
少年はただ朝刊を投げ込んで立ち去る。そんな日がしばらく続く。でも、<お屋敷>に人の姿を見ることはあれから一度もなかった。何といっても、まだ人が起きている時間帯じゃないのだ。
忙しくも楽しい日々が過ぎていった。
夏が深まるにつれ、旅館は滞在客でいっぱいになる。
少年はある家族の三人兄弟と仲よくなった。九才を先頭に二つずつ下るのだが、みんなしてお兄ちゃんお兄ちゃんとまとわりついてきて、少年が鶏にえさをやったり、客部屋をまわって寝具を整えたりするのを興味しんしんで眺めるのだ。少年が笑って、
「そんなにめずらしいんなら、見てないで手伝ってくれよ」
と言うと、彼らは、
「手伝っていいの?」
と目を輝かせ、競うように仕事にとりかかる。少年は彼らのあとから、まずいところを直してまわる。
夜、彼らの一人が少年を誘いにきて、いっしょに花火をしようと言う。あとから夕飯の片づけを一段落した姉も加わり、この晩中庭はちょっとしたにぎやかさだった。様々に色の変わるロケット花火や、ねずみ花火を打ち上げては、みんなしてばかみたいにはしゃぐ。けれど、おしまいの線香花火に火をつける頃になるといつしかみんな無口になり、めいめいがそれぞれの燃えてゆくのを真剣に、息を詰めて見守っている。
線香花火が途中で落ちたりしたら、それこそ大変なことだからだ。それはまるで、夏が途中で終わってしまうようなものだった。そんな悲しいことは、ぜったいにあってはならないのだ。
一週間がすぎて、三兄弟の帰る日になる。
「帰りたくないよう」とべそをかく真ん中の子をなだめながら、両親は中庭を行き来して荷物を運ぶ。
「来年、ぜったいまた来るからね!」
の大合唱を乗せて、紺のジープは砂利道を走り去る。
少年は知っている。たぶん、あの子たちに会うことはもうない。いつだって、こんなことのくり返しだからだ。
ともあれ、夏の続く限り、少年にはやることがどっさりある。少年はまたいつもの仕事に戻ってゆく。
その日も、少年は夕刊を積んだ自転車で街をとびまわっていた。
しずかな小雨が降りだしていた。急な坂道にさしかかって、自転車を降りて押しはじめたとき、少年はうしろから誰かが急ぎ足で近づいてくる気配を感じた。「あの、すみません」
変な外国語訛りのアクセントにふり返ると、うすむらさき色のワンピースが目にとびこんできた。
「あの、すみません。郵便局は、どこですか」
<異人村>(外国人の別荘がかたまっている一区画はそう呼ばれていた)に滞在しているらしい、一人の少女だった。
「この道をまっすぐです。ずっとまっすぐ」
「おお」
少女はほっとしたように足どりをゆるめた。
方向が同じなので必然的に並んで歩くようなかたちになった。少しの間互いに黙っていたが、どうにも気づまりなので少年は何か言うことを探し求めた。
「<異人村>に来てるんですか?」
と言ってはじめて相手の顔をまともに見たとき、少年は自分の心臓がどきんと音をたてるのを感じた。
「あ、そうじゃない--もしかして、<お屋敷>に来てるんですね?」
「<お屋敷>?」
「ほら、あっちの--」と、少年は指さした。「石造りの、大きな灰色の建物」「そう」
少女はびっくりしたようだった。
「知ってるの?」
「新聞を、配達してるもんだから」
「まあ、そうなの」
真っ黒い豊かな髪、同じく真っ黒い大きな瞳。
それはまさしく、あのとき窓の向こうに見た少女その人だった。けれど、今こうしていっしょに歩きながらしゃべっていると、ぜんぜん違う。はるかに近づきやすくて、ちゃんと生身の人間という感じがする。年も少年とさして違わないようだ。
「さっきまで二時間半も、ピアノの練習をしていたの」と、少女は言った。少女は髪に一輪のむくげの花をさしていた。「それでいいかげん飽きちゃったものだから、ちょっと散歩に出てきたの」
「すごいなあ。二時間半も、よく気力がもつね」
「ピアノに向かっているときは、夢中なの。でも、そのあとは・・・ だんぜん、外の空気がすいたくなるわ」
雨あしが強くなってきた。そこらじゅう、ふり注ぐひそやかな雨音でいっぱいだった。
「ぬれちゃいますね・・・」
少女は少しためらってから、少年の方へ傘をさしかけた。少年は何と答えるべきか分からなくて、口の中で意味のないことばをつぶやくしかなかった。そして、傘に入るでもなく、入らぬでもなく、中途半端な距離を保って歩き続けた。
「ピアノは、どんな曲弾くの?」
しばらくして、少年はたずねた。
「曲なんてほどのものじゃないけど」少女は肩をすくめた。「今やってるのは、ハノンとベートーヴェンのピアノソナタ。前はツェルニーもやってたんだけど、私、あれが恐ろしく嫌いで・・・ピアノに向かってツェルニーを弾こうと考えただけで、のどに重たいかたまりがつかえてくるの。それで、しまいには、どうしてもツェルニーをやらなくちゃいけないのならピアノをやめるって宣言して、ようやく解放されたっていうわけ」
少年は、ツェルニーなんて知らない。けれど、その時以来、少年の胸には憎むべき敵として、永遠にツェルニーの名が刻みこまれる。
楓並木を青くかすませて雨が降っていた。雨にぬれて歩き続けながら、少年はふと、すべてのものがふしぎなほどしっくりと調和しているのを感じる。この雨音--二つの人影--現在という時間。過去とも未来とも切りはなされて、ただそれ自身において充足した、現在という瞬間--。
珈琲屋の店先にたむろした一群の避暑客が、道ゆく二人を眺めるともなしに眺めている。彼らはその前を通りすぎる。
「ベートーヴェンは、何が好き?」
と、少女がたずねる。
「ぼくはあんまり、音楽は聴かないんだ。だけど、ぼくの親父が<田園>を好きでね、前はしょっちゅう聴いてたんだって」
「今は聴かないの?」
「うん。もう亡くなったから」
「まあ--」
少女はぎこちなく口ごもる。
少年は、平気だった。父親が亡くなったのはもうずいぶん昔のことで、そのとき少年はやっと物心つくかつかないかくらいだった。
「それで、君は何が好きなの?」
と、少年はたずねる。
「私は・・・ベートーヴェンより、どっちかというとショパンの方が好きなの。スケルツォの楽譜があるからときどきかじってみるんだけど、やっぱり、もっと上達してからでないとだめみたい」
少年は歩を緩めた。いつのまにか、赤レンガの郵便局の前に来ていた。
「じゃあ、ここですから」
少年が言うと、少女はまるで郵便局が忽然と出現でもしたみたいにびっくりした。
「おお」
少女はちょっとぐずぐずしていたが、少年の方はさっさと自転車にまたがった。
「それじゃ、また--傘をありがとう」
ペダルをこぎだしながら、少年はうしろをふり返らなかった。ふり返らなくてもはっきり見えたのだ--雨の中にたたずむ、黒髪にむくげの花をさした少女の姿、しだいに遠くなってゆくその姿が。
「おんぼろに限ってなかなか壊れないのよね」
少年の姉が、テレビのチャンネルをガチャガチャまわしながらぼやいている。「いつまで白黒でがまんしろっていうの?」
いつもながらの遅い夕食だった。少年はひどくいらいらして、これ以上この場にいてはいけないのが分かっていた。何かやらかすに違いなかった--姉貴にケンカをふっかけるとか、わざとお茶をひっくり返すとか。
「ごちそうさま」
箸をおいて立ち上がると、少年の母親が見とがめた。
「おや、もう終わりかい。腹の調子でもおかしいんじゃないだろうね」
「ううん、なんでもない」
少年は階段をかけあがって自分の部屋に入って、机の上にガリ版刷りの数学のプリントを広げた。しかし、すぐにそれを放り出して釣りの雑誌を手に取った。パラパラとページをめくりながら、雑誌を見てはいなかった。郵便局までの道のりを歩きながら、少女と交わした会話の一部始終がよみがえってきて仕方がなかった。一語一句、おどろくほど鮮明に、頭の中に再現される。まるで頭の中にこわれたテープレコーダーでもはめこまれたみたいに、くり返し、くり返し、果てしもなく--しまいにはうんざりしてしまって、少年は雑誌を壁にたたきつけて、畳の上にひっくり返った。宵闇に、雨音だけがひびいていた。
それからというもの、釣りに行くときは必ず少し道を外れて、<お屋敷>のようすがよく見えるところを通るようになった。もっとも、あくまで釣りに行く「ついでに」しか、少年はそうすることを自分に許そうとしない。
昼間の<お屋敷>は窓という窓が開け放たれ、カーテンがそよいでいたりして、いきいきとした人の気配に満ちていた。あるときははさみを手にした庭師が、熱心にばらの手入れをしていた。また別のときには、あの子の父親らしい、いかめしい顔をした外人の男の人が、芝生で煙草をくわえていたりした。
一度など、庭先に出した白いガーデンテーブルで、家族みんながお茶を飲んでいたこともある。少女のとなりには小さな妹がちょこんとすわり、父親と母親と(母親は日本人のようだった)、他に、家庭教師や使用人なんかがいて、彼らの足もとには大きなドイツシェパードが寝そべっていた。
少女はうすみどり色のドレスを着ていて、そのとりすました顔は、はじめて窓の中に見たときの感じに近かった。少年はこちらを向いて座っている少女に気づかれないよう、そっと<お屋敷>の前を通りすぎた。
休みもあんまり長いとだらけてくる。
八月半ば、釣り糸を垂れて考え事をしながら、少年はいつのまにか眠りこんでしまっていた。
額をふきそよぐ風にふっと目を開けると、湖上に一隻のボートがみえた。漕ぎ手の服の明るい青。少女だった。
考えるまもなく、少年は立ち上がっていた。声をかけようとする前に少女の方も気づいて、ボートをこちらに向けてきた。
「こんにちは」と、少女は言った。
「こないだ、街でお会いしましたよね・・・人ちがいでなければだけど。こないだは、どうもありがとう」
「いいえ」
少年はことばに詰まった。すみれの花を飾った少女の髪の、なんとまあきれいなことだろう。
船尾には妹が向かい合って座っていて、少年には気をとめず、何やらむずかしい顔をして水の中へ手をさし入れている。妹の方は金茶色の髪をしていて、顔だちももっと父親似だった。
「釣りをしているの?」少女がきいた。
「うん、そう」
「何か釣れた?」
「いや、今のところ」と、少年は言ってから、つけたした。「実は今まで、昼寝してたんだ」
「あ、そうなの」と言って、少女は笑った。
「私のとこではね、パパがきのう、友だちを何人か招んで、パーティーだったの。それで私、みんなの前でピアノを弾かなきゃならなかった。すっごく緊張したわ」
「ふうん。それで、うまく弾けた?」
少女は首をふった。
「だめ、一箇所まちがえちゃった」
「一箇所なら、ぜんぜん平気だよ」
「でも、ミス・タウンゼントには怒られたわ」
「ミス・タウンゼントって誰?」
「私のピアノの先生」
「ふうん」
彼らはしばらく沈黙した。
それから、少女がため息をついて言った。
「帰りたくないわ。ずうっとここにいられたら、どんなにいいでしょうね。ここ、すばらしいところだわ」
いや、そうでもないよ。冬には雪がどっさり降って、郵便は届かないし、ぼくら、学校へ行くの、大変なんだ--少年はそんなことを言おうと口を開きかけたが、少女の顔を見てやめた。
「いつ帰るの?」と、代わりに少年はきいた。
「分かんない。でも、たぶんもうすぐ」
「色んなところに行かれていいなあ。ぼくなんか生まれたときからずっとここなんだ。ときにはどっかに引っ越してみたいと思うよ」
「そう思う?」少女はぼんやりと聞き返した。
妹が少女の方に顔をあげて、外国のことばで何か言った。少女は同じことばで答えた。妹がさらに何か言い、すると少女は悲しげな顔になった。
「そろそろ、行かなくちゃならないわ。うちを知ってるんだったら、こんど遊びにきてね。それじゃ、またいつかね」
ボートは漕ぎ去っていった。
少年は再び草の上にひっくり返って、目を閉じた。
夏も終わりに近づいたある日、少年は<お屋敷>の人たちが立ち去ったことを知った。窓という窓は鎧戸で閉ざされ、芝生に出ていたガーデンテーブルもどこかに片づけられて、<お屋敷>は見るからにがらんとしていた。
少年はばらを這わせた柵ごしにじっと立ちつくして<お屋敷>を眺めた。
昼下がりだった。蝉がやたらとうるさかった。門のわきに植えられた背の高いポプラが風にざわざわなっていた。
目を閉じると、プラットフォームに立って列車を待つ少女の姿が見える--よそいきの帽子をかぶり、かっちりしたスーツケースを持って、午後の陽ざしを浴びて立っている・・・折り目正しい人々に囲まれ、小さな妹の手を引いて・・・ 少女が弾きたがっていた<無題>とはどんな曲なのだろう?
しずかに耳をすませば、こずえのざわめきの向こうから、かすかなピアノの旋律がきこえてくる気がする。
九月一日の空があまり美しいと悲しくなる。
久しぶりの布かばん、アルミの弁当箱、部屋のすみに放ったらかしになっていた学生服。
畑地と砂利道のあいだには、もう秋の花々が咲き競っている。明るい陽射しにゆれるコスモス、深い空の色をそのまま切り取ったようなりんどう。
毎日学校へ行かなくてはならない日々がまた巡ってきて、やがてそれが当たり前のことになる。
削ったばかりの鉛筆を机の上で転がしながら、ときどき少年はぼんやりと思いにふける--ひとつかみの宝石のように、心の中に転がっているいくつかの場面、いくつかの会話。ノートの端っこに書き出した連立方程式の計算の途中で、少年はふと手をとめて思いにふける--。
(1996)
詞華集カフェ・ジュヌヴィエーヴ 8
シュザンヌ
<深窓の令嬢>なんてことばを知ったのは、もちろんずっと大きくなってからのことだった。けれど、そのことばを知ったとき、彼はどうしたってあの少女のことを思い出さないわけにはいなかったのだ--まばゆい宝石のように光を放つ、十四才の夏。
ほんとを言うと、あの子はいつでも深窓の内側におしとやかにとじこもっていたわけではなかった。人間だったらだれも、そんなにいつも窓の中におさまっていられるもんじゃない。でも、今思うとやっぱり、あの子はいつも窓の向こうにいた--厚い追憶のガラスをはめた窓の向こう側に。
高原の夏は早い。
少年がいつもの橋を木の枝でカンカンたたきながら渡ると、両岸にはもう、野ばらやにせアカシアの白い花房がいっぱいに咲き乱れている。
長い休みを前にして、少年は豊かな気持ちだった。--始まる前がいちばん楽しんだよな。
少年はこの夏、家族に相談もしないで勝手に新聞配達を始めた。母親はそれを知ってひどく怒った。
「仕事だったらうちでやることがいくらでもあるでしょうに。何だってわざわざよけいなことをするんだか・・・」
少年のうちは旅館を営んでいる。このへんのおおかたのうちがそうなのだ。旅館の子には、旅館を手伝うことが当然のこととして期待されている。うちでやることは、いくらだってある。
少年は、ただ働きには、もううんざりだ。お金のためじゃない。仕事をしただけ、それが形として残るようなことをしてみたかった。
夜明けの光が東の空をすもも色に染めるころ、少年は自転車を引き出して仕事に出掛ける。少年の受け持ちは街のほうではなく、森の中に散在する別荘村だ。 この辺には、外国人も多い。表札がローマ字で出ているところには、英字新聞を投げ入れてゆく。
朝まだき、やかましいくらいの鳥のさえずり。草を踏みしめてゆけば、冷たいつゆに足はびっしょりぬれる。森は木のやにと、きのこと、洗われたばかりのみどりの匂い。
午後になると少年は魚釣りに出かける。行く先は近くの湖だ。釣り糸を垂れながらぼんやり考えにふけっていたりするので大して魚は釣れなかったが、ひんやりした木かげにひっくり返っているのはいい気持ちだった。
湖へぬける道から少し外れて、古風な石造りの大きな館がたっている。広い庭は荒れほうだい、ずいぶん前からだれも住んでいない。みんなはそこを<お屋敷>と呼んでいる。行きも帰りも、<お屋敷>のたたずまいを何となく眺めながら、少年は通りすぎる。その淋しげなようすを見るとどういうわけか、妙に心が落ち着くのだ。で、何かおもしろくないことがあってむしゃくしゃするときもここへ来て、しばらく眺めていたりする。
少年には成人した姉がいて、それで二人はしょっちゅうけんかをする。
たいてい悪いのは少年の方で、この日もそうだった。数学の問題を教えてくれと頼んでおいて、いくら説明されても分からないのに腹を立て、
「姉ちゃんは人に説明するのが下手なんだよ」
と口走ってしまう。それからひとしきりやりあったあと、二人はしばらく、口をきかない。
静かな小雨が降っている。少年はどうにも気が晴れなくて、ふらっとうちを出ると、釣りにいくいつもの道をぶらぶら歩きだす。
気がつくと彼は<お屋敷>の見えるところに来ている。いつもはただ道から眺めるだけで、近くまで行ったことはない。
少年は茂みをかきわけながら辺りを探検してみる。垣根にクリーム色のばらが咲いているのを見つけて彼は驚く。<お屋敷>のいくつもある窓は、重厚な感じの装飾が施され、風雨にさらされて美しかった。
少年は裏庭の柳の木にもたれかかって二階の窓を見上げた。と、彼は心臓がとまるかと思った。窓の中に人の顔が見えたのだ。
少女だった。古風な白いレースの服を着、頭にも白いレースを飾って、豊かな黒髪が肩まで波打っている。黒い大きな瞳は思いにふけるように、窓の外をしずかに見つめている。暗い室内を背景に、雨粒にふちどられた窓ガラス。
少年の目は、釘づけになったまま動かない。それはまるで一枚の絵だった。偉大な画家が、己れの持てるすべてを注ぎこんで描き上げたマスターピースだ。
少女はしばらくの間そうしていたが、やがてすっとカーテンをひいて姿を消した。
少年は、魔法を解かれたように我に返る。今のはきっと、ほんとじゃない、と彼は思う。けれど、だとしたら何だったんだ?
<お屋敷>は何事もなかったように、雨にぬれながらひっそりとたっている・・・
それから二、三日して、少年は自分の区域の中で、新たに新聞を届けるべき住所を渡される。それは何と<お屋敷>だった。<お屋敷>に本当に人が入ったのだ。
わずか数日で<お屋敷>はずいぶん変わっていた。芝生はきれいに刈られ、玄関までの道も整備されて、車庫には黒いメルセデスがとめられている。表札のローマ字には、Uにちょんちょんのついた変な字がまじっていて、少年には読めない。
少年はただ朝刊を投げ込んで立ち去る。そんな日がしばらく続く。でも、<お屋敷>に人の姿を見ることはあれから一度もなかった。何といっても、まだ人が起きている時間帯じゃないのだ。
忙しくも楽しい日々が過ぎていった。
夏が深まるにつれ、旅館は滞在客でいっぱいになる。
少年はある家族の三人兄弟と仲よくなった。九才を先頭に二つずつ下るのだが、みんなしてお兄ちゃんお兄ちゃんとまとわりついてきて、少年が鶏にえさをやったり、客部屋をまわって寝具を整えたりするのを興味しんしんで眺めるのだ。少年が笑って、
「そんなにめずらしいんなら、見てないで手伝ってくれよ」
と言うと、彼らは、
「手伝っていいの?」
と目を輝かせ、競うように仕事にとりかかる。少年は彼らのあとから、まずいところを直してまわる。
夜、彼らの一人が少年を誘いにきて、いっしょに花火をしようと言う。あとから夕飯の片づけを一段落した姉も加わり、この晩中庭はちょっとしたにぎやかさだった。様々に色の変わるロケット花火や、ねずみ花火を打ち上げては、みんなしてばかみたいにはしゃぐ。けれど、おしまいの線香花火に火をつける頃になるといつしかみんな無口になり、めいめいがそれぞれの燃えてゆくのを真剣に、息を詰めて見守っている。
線香花火が途中で落ちたりしたら、それこそ大変なことだからだ。それはまるで、夏が途中で終わってしまうようなものだった。そんな悲しいことは、ぜったいにあってはならないのだ。
一週間がすぎて、三兄弟の帰る日になる。
「帰りたくないよう」とべそをかく真ん中の子をなだめながら、両親は中庭を行き来して荷物を運ぶ。
「来年、ぜったいまた来るからね!」
の大合唱を乗せて、紺のジープは砂利道を走り去る。
少年は知っている。たぶん、あの子たちに会うことはもうない。いつだって、こんなことのくり返しだからだ。
ともあれ、夏の続く限り、少年にはやることがどっさりある。少年はまたいつもの仕事に戻ってゆく。
その日も、少年は夕刊を積んだ自転車で街をとびまわっていた。
しずかな小雨が降りだしていた。急な坂道にさしかかって、自転車を降りて押しはじめたとき、少年はうしろから誰かが急ぎ足で近づいてくる気配を感じた。「あの、すみません」
変な外国語訛りのアクセントにふり返ると、うすむらさき色のワンピースが目にとびこんできた。
「あの、すみません。郵便局は、どこですか」
<異人村>(外国人の別荘がかたまっている一区画はそう呼ばれていた)に滞在しているらしい、一人の少女だった。
「この道をまっすぐです。ずっとまっすぐ」
「おお」
少女はほっとしたように足どりをゆるめた。
方向が同じなので必然的に並んで歩くようなかたちになった。少しの間互いに黙っていたが、どうにも気づまりなので少年は何か言うことを探し求めた。
「<異人村>に来てるんですか?」
と言ってはじめて相手の顔をまともに見たとき、少年は自分の心臓がどきんと音をたてるのを感じた。
「あ、そうじゃない--もしかして、<お屋敷>に来てるんですね?」
「<お屋敷>?」
「ほら、あっちの--」と、少年は指さした。「石造りの、大きな灰色の建物」「そう」
少女はびっくりしたようだった。
「知ってるの?」
「新聞を、配達してるもんだから」
「まあ、そうなの」
真っ黒い豊かな髪、同じく真っ黒い大きな瞳。
それはまさしく、あのとき窓の向こうに見た少女その人だった。けれど、今こうしていっしょに歩きながらしゃべっていると、ぜんぜん違う。はるかに近づきやすくて、ちゃんと生身の人間という感じがする。年も少年とさして違わないようだ。
「さっきまで二時間半も、ピアノの練習をしていたの」と、少女は言った。少女は髪に一輪のむくげの花をさしていた。「それでいいかげん飽きちゃったものだから、ちょっと散歩に出てきたの」
「すごいなあ。二時間半も、よく気力がもつね」
「ピアノに向かっているときは、夢中なの。でも、そのあとは・・・ だんぜん、外の空気がすいたくなるわ」
雨あしが強くなってきた。そこらじゅう、ふり注ぐひそやかな雨音でいっぱいだった。
「ぬれちゃいますね・・・」
少女は少しためらってから、少年の方へ傘をさしかけた。少年は何と答えるべきか分からなくて、口の中で意味のないことばをつぶやくしかなかった。そして、傘に入るでもなく、入らぬでもなく、中途半端な距離を保って歩き続けた。
「ピアノは、どんな曲弾くの?」
しばらくして、少年はたずねた。
「曲なんてほどのものじゃないけど」少女は肩をすくめた。「今やってるのは、ハノンとベートーヴェンのピアノソナタ。前はツェルニーもやってたんだけど、私、あれが恐ろしく嫌いで・・・ピアノに向かってツェルニーを弾こうと考えただけで、のどに重たいかたまりがつかえてくるの。それで、しまいには、どうしてもツェルニーをやらなくちゃいけないのならピアノをやめるって宣言して、ようやく解放されたっていうわけ」
少年は、ツェルニーなんて知らない。けれど、その時以来、少年の胸には憎むべき敵として、永遠にツェルニーの名が刻みこまれる。
楓並木を青くかすませて雨が降っていた。雨にぬれて歩き続けながら、少年はふと、すべてのものがふしぎなほどしっくりと調和しているのを感じる。この雨音--二つの人影--現在という時間。過去とも未来とも切りはなされて、ただそれ自身において充足した、現在という瞬間--。
珈琲屋の店先にたむろした一群の避暑客が、道ゆく二人を眺めるともなしに眺めている。彼らはその前を通りすぎる。
「ベートーヴェンは、何が好き?」
と、少女がたずねる。
「ぼくはあんまり、音楽は聴かないんだ。だけど、ぼくの親父が<田園>を好きでね、前はしょっちゅう聴いてたんだって」
「今は聴かないの?」
「うん。もう亡くなったから」
「まあ--」
少女はぎこちなく口ごもる。
少年は、平気だった。父親が亡くなったのはもうずいぶん昔のことで、そのとき少年はやっと物心つくかつかないかくらいだった。
「それで、君は何が好きなの?」
と、少年はたずねる。
「私は・・・ベートーヴェンより、どっちかというとショパンの方が好きなの。スケルツォの楽譜があるからときどきかじってみるんだけど、やっぱり、もっと上達してからでないとだめみたい」
少年は歩を緩めた。いつのまにか、赤レンガの郵便局の前に来ていた。
「じゃあ、ここですから」
少年が言うと、少女はまるで郵便局が忽然と出現でもしたみたいにびっくりした。
「おお」
少女はちょっとぐずぐずしていたが、少年の方はさっさと自転車にまたがった。
「それじゃ、また--傘をありがとう」
ペダルをこぎだしながら、少年はうしろをふり返らなかった。ふり返らなくてもはっきり見えたのだ--雨の中にたたずむ、黒髪にむくげの花をさした少女の姿、しだいに遠くなってゆくその姿が。
「おんぼろに限ってなかなか壊れないのよね」
少年の姉が、テレビのチャンネルをガチャガチャまわしながらぼやいている。「いつまで白黒でがまんしろっていうの?」
いつもながらの遅い夕食だった。少年はひどくいらいらして、これ以上この場にいてはいけないのが分かっていた。何かやらかすに違いなかった--姉貴にケンカをふっかけるとか、わざとお茶をひっくり返すとか。
「ごちそうさま」
箸をおいて立ち上がると、少年の母親が見とがめた。
「おや、もう終わりかい。腹の調子でもおかしいんじゃないだろうね」
「ううん、なんでもない」
少年は階段をかけあがって自分の部屋に入って、机の上にガリ版刷りの数学のプリントを広げた。しかし、すぐにそれを放り出して釣りの雑誌を手に取った。パラパラとページをめくりながら、雑誌を見てはいなかった。郵便局までの道のりを歩きながら、少女と交わした会話の一部始終がよみがえってきて仕方がなかった。一語一句、おどろくほど鮮明に、頭の中に再現される。まるで頭の中にこわれたテープレコーダーでもはめこまれたみたいに、くり返し、くり返し、果てしもなく--しまいにはうんざりしてしまって、少年は雑誌を壁にたたきつけて、畳の上にひっくり返った。宵闇に、雨音だけがひびいていた。
それからというもの、釣りに行くときは必ず少し道を外れて、<お屋敷>のようすがよく見えるところを通るようになった。もっとも、あくまで釣りに行く「ついでに」しか、少年はそうすることを自分に許そうとしない。
昼間の<お屋敷>は窓という窓が開け放たれ、カーテンがそよいでいたりして、いきいきとした人の気配に満ちていた。あるときははさみを手にした庭師が、熱心にばらの手入れをしていた。また別のときには、あの子の父親らしい、いかめしい顔をした外人の男の人が、芝生で煙草をくわえていたりした。
一度など、庭先に出した白いガーデンテーブルで、家族みんながお茶を飲んでいたこともある。少女のとなりには小さな妹がちょこんとすわり、父親と母親と(母親は日本人のようだった)、他に、家庭教師や使用人なんかがいて、彼らの足もとには大きなドイツシェパードが寝そべっていた。
少女はうすみどり色のドレスを着ていて、そのとりすました顔は、はじめて窓の中に見たときの感じに近かった。少年はこちらを向いて座っている少女に気づかれないよう、そっと<お屋敷>の前を通りすぎた。
休みもあんまり長いとだらけてくる。
八月半ば、釣り糸を垂れて考え事をしながら、少年はいつのまにか眠りこんでしまっていた。
額をふきそよぐ風にふっと目を開けると、湖上に一隻のボートがみえた。漕ぎ手の服の明るい青。少女だった。
考えるまもなく、少年は立ち上がっていた。声をかけようとする前に少女の方も気づいて、ボートをこちらに向けてきた。
「こんにちは」と、少女は言った。
「こないだ、街でお会いしましたよね・・・人ちがいでなければだけど。こないだは、どうもありがとう」
「いいえ」
少年はことばに詰まった。すみれの花を飾った少女の髪の、なんとまあきれいなことだろう。
船尾には妹が向かい合って座っていて、少年には気をとめず、何やらむずかしい顔をして水の中へ手をさし入れている。妹の方は金茶色の髪をしていて、顔だちももっと父親似だった。
「釣りをしているの?」少女がきいた。
「うん、そう」
「何か釣れた?」
「いや、今のところ」と、少年は言ってから、つけたした。「実は今まで、昼寝してたんだ」
「あ、そうなの」と言って、少女は笑った。
「私のとこではね、パパがきのう、友だちを何人か招んで、パーティーだったの。それで私、みんなの前でピアノを弾かなきゃならなかった。すっごく緊張したわ」
「ふうん。それで、うまく弾けた?」
少女は首をふった。
「だめ、一箇所まちがえちゃった」
「一箇所なら、ぜんぜん平気だよ」
「でも、ミス・タウンゼントには怒られたわ」
「ミス・タウンゼントって誰?」
「私のピアノの先生」
「ふうん」
彼らはしばらく沈黙した。
それから、少女がため息をついて言った。
「帰りたくないわ。ずうっとここにいられたら、どんなにいいでしょうね。ここ、すばらしいところだわ」
いや、そうでもないよ。冬には雪がどっさり降って、郵便は届かないし、ぼくら、学校へ行くの、大変なんだ--少年はそんなことを言おうと口を開きかけたが、少女の顔を見てやめた。
「いつ帰るの?」と、代わりに少年はきいた。
「分かんない。でも、たぶんもうすぐ」
「色んなところに行かれていいなあ。ぼくなんか生まれたときからずっとここなんだ。ときにはどっかに引っ越してみたいと思うよ」
「そう思う?」少女はぼんやりと聞き返した。
妹が少女の方に顔をあげて、外国のことばで何か言った。少女は同じことばで答えた。妹がさらに何か言い、すると少女は悲しげな顔になった。
「そろそろ、行かなくちゃならないわ。うちを知ってるんだったら、こんど遊びにきてね。それじゃ、またいつかね」
ボートは漕ぎ去っていった。
少年は再び草の上にひっくり返って、目を閉じた。
夏も終わりに近づいたある日、少年は<お屋敷>の人たちが立ち去ったことを知った。窓という窓は鎧戸で閉ざされ、芝生に出ていたガーデンテーブルもどこかに片づけられて、<お屋敷>は見るからにがらんとしていた。
少年はばらを這わせた柵ごしにじっと立ちつくして<お屋敷>を眺めた。
昼下がりだった。蝉がやたらとうるさかった。門のわきに植えられた背の高いポプラが風にざわざわなっていた。
目を閉じると、プラットフォームに立って列車を待つ少女の姿が見える--よそいきの帽子をかぶり、かっちりしたスーツケースを持って、午後の陽ざしを浴びて立っている・・・折り目正しい人々に囲まれ、小さな妹の手を引いて・・・ 少女が弾きたがっていた<無題>とはどんな曲なのだろう?
しずかに耳をすませば、こずえのざわめきの向こうから、かすかなピアノの旋律がきこえてくる気がする。
九月一日の空があまり美しいと悲しくなる。
久しぶりの布かばん、アルミの弁当箱、部屋のすみに放ったらかしになっていた学生服。
畑地と砂利道のあいだには、もう秋の花々が咲き競っている。明るい陽射しにゆれるコスモス、深い空の色をそのまま切り取ったようなりんどう。
毎日学校へ行かなくてはならない日々がまた巡ってきて、やがてそれが当たり前のことになる。
削ったばかりの鉛筆を机の上で転がしながら、ときどき少年はぼんやりと思いにふける--ひとつかみの宝石のように、心の中に転がっているいくつかの場面、いくつかの会話。ノートの端っこに書き出した連立方程式の計算の途中で、少年はふと手をとめて思いにふける--。
(1996)
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