2018年02月18日
小説 ホテル・ノスタルジヤ あと書き
今回、この作品をアップし始めてまもなく、パリでは雪が降り始めました。
この街で迎える4度目の冬ですが、これまで、暖冬つづきであまり降らなかったのです。
だから、雪景色のパリって私もはじめてなのです。
物語の中のように、けっこうな勢いで降って、どんどん積もっていきました。
サン・ドニの大学で授業を受けながら窓を眺め、ああ、今頃イレーヌがモンパルナス駅に着いた頃だな、と想像していました。
この物語が生まれたのは、2005年の冬ごろ。まだパリを訪れたこともなかったころのことです。
イギリスとアイルランドを巡る放浪の旅から還ってきて、ひとところの暮らしに飽き足らず、また旅に出たいなぁ、こんどはパリあたりに行きたい、ふらっと入ったホテルにそのまま居座って、好きなだけ、気のすむまで滞在したい・・・
掃除とか買い物とかもせずに気ままに暮らしたい、しかもお金の心配もなしに。
そうするうちに色々楽しいことに出会って、物語が生まれて・・・
そんな勝手な妄想を楽しんでいたのです。
長らく温めているだけだったのが、実際パリに住むようになって、今なら書けるかも、と思うようになり・・・ようやく書き上げたのが、2016年のイースター休み。
今も住んでいる14区のモンパルナス界隈のどこか、という設定で書きました。
ほとんど全シーン、実際の場所が舞台です。
これを書き上げてから、・・・ここが彼女の歩いた通り、ここが彼女の入った花屋、朝の4時に駆け込んだ警察署など、通るたびにこの物語のワンシーンを思い出すようになりました。
そして、自分の暮らすカルティエにより親しみを感じるように。
裏通りにひっそりと建つ、理想のプチホテルを想像して、内装や調度なんかをあれこれ考える時間が楽しかった。
物語の中なら、何でも好きなように実現できてしまうのがいいところ。
子供のころは、何もなくても何時間でも空想の世界に浸って、下手するとまわりの現実世界よりもそっちのほうがよほど鮮やかで、現実味があったものです。
これを書いているあいだ、久しぶりにすべてを忘れて没頭し、そんな楽しい時間を過ごしました。
そうしてこのブログにアップし始めたころ、パリではほんとうに雪が。。
ものを書いていると、こんなシンクロニシティがよく起こります。
しかも現実のできごとのほうが、あとからついてくることが多い。
そう、よくあるんだわ… ってことを、久しぶりに思い出しました。
現実の車輪に縛りつけられて、ただ引きずられていくだけじゃなく、踏みとどまって、自分の足で歩き始めると、現実のほうが歩み寄ってきてくれる。
こんな物語を書き続けていると、そのうち私も翼のある馬に乗って窓から飛び立てる日が来るかもしれません。
(まあ、それはなかなか難しいかもしれないけど…)
少なくとも、そのうち何らかのかたちで、また新しい旅立ちの日を迎えることができるんじゃないかと思います。
この作品のストーリーはじっさいパリに住むよりずっと前にできていたもの。
だからこそ書けたので、じっさい住んでからでは書けなかったと思います。
現実のパリは、ときにほんとうに醜いから。
これはあくまでも「私の」パリの物語です。
今回、作品じたいはすでに書きあがっていたのですが、各場面になんとなく合うような画像を、これまでの3年半撮りためたたくさんの写真の中から選ぶのがけっこう大変でした。
なので、その整理の仕方を見直す機会ともなりました。
パリ暮らしも、気がつけばはや4年目。
でも、思うにきっとこの街は、住むより旅するのにいいところ。
きっと私もイレーヌのように、気の向くまま、心のままに、世界中を旅して暮らしたいのだと思います。
こんどはどこへ旅しましょうか。
小説 ホテル・ノスタルジヤ イラスト集&物語のモデル
小説 ホテル・ノスタルジヤ(17) イレーヌの出発
小説 ホテル・ノスタルジヤ(16) 空の彼方へ
小説 ホテル・ノスタルジヤ(15) 画家と見習い
小説 ホテル・ノスタルジヤ(14) さいごの手段
小説 ホテル・ノスタルジヤ(13) 画商のマルタン
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Posted by 中島迂生 at 08:05│Comments(0)
│小説 ホテル・ノスタルジヤ
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