2021年01月29日

イラストの初仕事:ノートルダムと白いドレスの少女



さいきん、はじめてお仕事で描いたイラストです。
主要モチーフは、左側の、パリのノートルダム。
私がいちばん美しいと思う、斜め後ろからの眺めです。
右上が、そのノートルダムの上から望むパリ市街、右下はアレクサンドル三世橋という橋です。
近景はノートルダムのガーゴイルたち。
でも、実はこの絵の主人公は、橋の上にたたずむ白いドレスの少女。
発注から納品まで、二週間くらいかかったかな。
あたらしい経験で、いろいろと学ぶところがあったので、メモしておこうと思います。

   ***
 
少し前に登録して始めた<ココナラ>というクラウドソーシングサービス。
といっても初心者にそうそう仕事など来るはずもありません。
だいたい、知られてないし。。
<ココナラ>ではそういう人にとってうれしい<公開依頼>という、なんというか、競合入札みたいな制度があります。
「こんな仕事をしてほしいのですが」「こんな作品が欲しいのですが」という希望を、個人なり企業なりが公開すると、それを見たなかで、「それならできそう」「やってみたい」っていう人が手を挙げる。
そのなかで選ばれた人がその仕事を得ることになる。

これのいいところは、手を挙げる人はただ手を挙げるだけで、その時点では求められる作品をつくる必要はない。
ポートフォリオを送ったりしてアピールするのは自由ですが。
選ばれるまではつくる必要がないので、時間とエネルギーをムダにすることがない。
良心的でありがたい制度だと思います。

そこで手を挙げていたもののひとつで、私に「お願いします」って来た。
さいしょの仕事を得るまでがたいへんで、長くかかると聞いていたから、びっくり。
パリの風景を描いてほしいという案件だったのだけど、「作風がとても気に入りました」と。
クラウドファンディングのビジュアルに使うそう。
うれしいことです。最善を尽くす!と心に決めた。

現在の私のスタイルは、
アナログで紙面にボールペン等で線画→色鉛筆で着色→スキャンしてPhotoshopで修正・調整→jpegにて納品
というもの。今後は分からないけれど、目下はね。

正直、ものすごく大変だったけど、それはたぶん初回だから、方法論が確立していなくて試行錯誤でやってたから。
おそらく今回がいちばん大変だったので、次回以降はもうちょっとシステマチックにやってけるはず。。

   ***

クライアントさん自体はたいへんいい方で、求めるポイントをきちっと説明してくれたし、それ以外は全面的に私を信頼して、任せてくれた感じだった。
好きにさせてくれる人って大好き。
初回がこういうクライアントさんでほんと、ラッキーだった。

「パリのどこを描きましょうか」と聞いたら「詳しくないので好きな場所をお願いします」と。
えーっ、そんなところから私が決めていいんですか。それなら喜んで。
「ノートルダムを描きたいです!」と画像を送ると、「ではそれで!」ということに。

「風景のなかに白いドレス姿の少女を描きこんでほしい」とのことで、モチーフや構図を打ち合わせ。
少女は14歳くらいで、「どちらかといえば精霊のような非日常的な雰囲気の少女」、後期ムンクのイメージだそう。
また、プルーストがとてもお好きで、<失われた時を求めて>の中に出てくるマドレーヌと紅茶のイメージで、できれば黄色・オレンジ系の色調をご希望とのこと。

そこで私が提案したのは、
ノートルダムの斜め後ろからの眺めを中心にパリの街並を遠景に据え、その手前に橋を渡っていく少女の姿。
さらに近景に、ノートルダムのガーゴイルたちが肩を寄せ合って少女を眺めている。
その視線を感じて少女がこちらを振り返りかけたところ。
そのようすを、プルーストの文体のような緻密な画風で。
という構想。

これでOKをいただいたので、下描きにとりかかる。
あまりやったことのないタイプのイラストで、ちょっと、モチーフの配置が難しく、何度か描き直ししました。

基本、写真からの描き起こしですが、ほとんど、自分で過去に撮った写真から。
じっさいそこにいて、何がどうなっていたか見ていたっていうのは強い。
だから自分的ベストなアングルで撮っているし。

   ***



下描きが仕上がるのに一週間弱。
初仕事ということで気合が入りすぎ、ちょっと凝りすぎたかも。
実質、風景画3枚という感じ、ちょっとごちゃごちゃした構図になってしまった。
説得力ある構図とするために、複数のモチーフを調和させてみせるのは色の役目だ。それはあとで。

作業しながら感じたのは、いかに「自分の」作品とするか、というところがポイントな気がする。
クライアントさんは全面的に信頼してくれてるけど、それでも注文仕事であって、さいしょに自分のなかにイデーがあって描くわけじゃないから。
核のところを、つねに人に確かめなくてはいけない。
それがちょっとキツイ…ちょっとだけね。
仕事でやる限りは常にそういうのはあるのだろうな。



ペン入れに、さらに二日弱。
いちばんさいごに残した、豆粒ほどの、でも実はこの絵の主人公である少女も完了、画竜点睛という感じ。
めっちゃ細かいディテールが多いので、すごい目が疲れた。
ちょっとこまかく描きこみすぎたかも。。

ノートルダムは大好きだったけど、パリに何年も住みながら、
いままでパリの建物はただ写真を撮るだけで、描こうと思ったことはなかった。
なんかもう、そこにあるだけで完璧で、このうえ私が介入して何かをつくろうとは思わなかった。

でも、やってみて思ったのは、建造物を描くのって勉強になるな。
たとえ写真から描き起こすだけでも、ほぼ単なるトレース作業であっても。
ただ写真撮るだけよりぜんぜん。
その建物の魂を、ちょっぴりよりよく知った気もちになる。

   ***

ペン入れが終了したのち、近所のOffice Depotへ行って、濃さを変えて何枚かコピーをとる。
色は直接原画にではなく、こうして、濃い目に打ち出したコピーに塗ることが多い。
そのほうが画面が締まる感じがするし、あとトナーだと、インクじゃないから上からぐりぐり強く塗っても滲まないのだ。
あと、なんかしっくりしなくて一からやり直したいという場合にもよい。

しかしこちらのOffice Depotは自分でコピーできなくて、カウンターの向こうにあるコピー機で店員さんにコピーしてもらうシステム。
濃さを変えるだけでコピー代じたいの何倍もの手数料がかかるのだ。
これはほんとにやめてほしい。
それに今回はディテールが繊細過ぎて、どの階調でもどこかしら掠れてるか潰れてるか。
正直どれもダメな気がした…
これはコピー機の問題というより私のほうの問題でもある。
つぎからペン入れはもっとシンプルに、くっきりと入れるようにしよう。

関係ないけど、お客さんがいっぱいで密でイヤだったなー。。

とりあえず今回は… 強い部分は強すぎるような気もするけど、微妙なディテールをとりあえずいちばん掬えている、いっちばん濃いバージョンを選んで色を入れることにした。

一日作業してとりあえずすべて塗り終えたが、納得いく仕上がりではない。
ひと晩寝かせて、ためつすがめつ、手直ししていく。
いつもだいたい、そんな感じ。
納得いくまで、ようすを見ながら、重ねて重ねて。



   ***

ところで、Office Depotでは、ペン入れした原画をスキャンしてUSBに入れてもらうというのも頼んでいた。
しかし、たしかにスキャンはしてくれたのだが、家に帰って確かめたらUSBにデータが入っていないことが判明。
いや別に、店員のお姉さんに悪気はないし、単なる手違いだったと思うよ。
でも、そのために密な店内でなるだけ息をしないようにして待っていたのに。
足を運んだ手間は何だったのか。力抜けた…。

実はそれまでも、パリの家で使うスキャナがひとつほしいなとずっと思っていた。
スキャナがなくて不便な場面がたくさんあったの。
つくばの家で使ってるのは複合機だから、こっちに持ってくるのは難しかった。
それで今回、怒った勢いで、というか、この機会を逃すとまた長くかかりそうなので、Office Depotへ行った翌日、朝イチでネットでスキャナを注文。
80ユーロほどのCannonのシンプルなもの。
仕様書を読んだ限りではなかなか画質もいいことになっていた。
その翌日、さっそく到着。話が早い。

しかし、さっそくDVDでソフトをインストールし、塗りを仕上げたばかりのイラストをスキャンしてみると…
「うわぁ全然別ものじゃん」というショック。
黄色いトーンがほとんど反映されていなくて、オレンジの部分は赤みたいになっちゃってる…。
Photoshopで取り込んで、手動で手直ししてなんとか原画に近づけてみる。
めっちゃ手間がかかる。
あ、Photoshopというのは画像編集ソフトです。

いちおうそれで、頼まれていた文字も入れて、いくつか色やフォントを変えたバージョンをクライアントさんに送る。
そしたら、もっと飾り文字みたいのをご希望ということで、イメージに合いそうな凝ったフォントをネットで探した。
これは手間かかったけれど、勉強になった。
ずばらしいフォントがたくさん、フリーでダウンロードできるのね。
そして、ただダウンロードしてインストールするだけで、自動的にPhotoshopで使えるようになる。
これ、やってみると感動します。

あと、フォントをかっこよく掠れさせることはできるかなと調べたら、これも分かった
ラスタライズして消しゴム機能で、少し粗目のブラシにしてやるといい感じに掠れる。
いろいろ勉強になります。
先日、自分の作品に電子署名を入れるのに、フォントの変形のさせ方とかをいろいろ研究したのも役に立った。

   ***

そんな感じにだいたい仕上がったのですが、スキャナの仕上がりがどうしても納得いかなかったので、いまいちどOffice Depotでスキャンし直してもらって、比べてみようと思い立ち。
日を改めて足を運び、先日の件を説明してスキャンし直してもらった。もちろん無料で。いちおうレシートを持っていったけど、見せろとも言われなかった。店員さん、いい人だったわ。
今回はその場でUSBの中身を見て、データがちゃんと入ってることを確認した。

そして、家に帰って自分のスキャナでスキャンしたバージョンと比べてみると、差が歴然。
黄色いトーンもちゃんと忠実に出ているほか、線画のラインもこのほうがよく再現できているようだ。
はぁ… 結局Office Depotには勝てないのか。。

ただ、端っこが少し切れてしまっていてね。
自分でスキャンしたバージョンと接ぎ合わせて復活させたけど、それでまた手間がかかった。
これは自分の問題だな。
端っこぎりぎりまで描いたらスキャンしたときに切れてしまうのは分かっているのだから、端っこまで描かないようにしないといけないのだよ。
どうしてもめいっぱい描きこみたくなってしまって。

というわけで…
今後こういうことを数をこなしていくとなると、方法論をシステマチックに構築しておかないと。
毎回、<黄色問題>に煩わされるのは困る。
かといって毎回Office Depotに何度も足を運ぶのも勘弁してほしい。
またタブレット購入を検討するか…。(昔は使っていた)
これは今後の課題。。

とりあえず、完成!!(これは文字入れしていないバージョン。)



  ***

いろいろ気づきや問題点があったけれど、いちばんはやはり。

前のところでも書いたけど、注文仕事でも、<自分の作品>としていく作業が必要。
コミットしていくというか。
愛せないと、ほんとには描けないからね。
必然性がないと。
物語を、創造しなくちゃいけない。

今回はラッキーにも、好きな場所を好きな構図で描かせてもらえたけど。
それでもただ写真から写し取るだけでは創造とは言わないから
だから… 今回の創造は、組み合わせと配置がすべて。
視線の交錯を生み出すための。

ガーゴイルたちが、みんなして遠くの少女を眺めている。
たぶん彼女に、少し人間離れした、自分たちと同じ異界に半分属しているようなものを感じ取ったから。
あれは誰だ、と思って見ている。
少女のほうもその視線を感じて、いまにも振り返ろうとしている…。

モチーフの選択と配置にのみオリジナリティーが。
コラージュみたいなものね。視線がぐわーっと遠くの一点に収斂していく。

そしてまた、大きく言えば、大好きだった、失われてしまったノートルダムへのオマージュでもある。

それにしても絵を描くって、毎回が探検で、発見で、地図のない旅だな。
最終的にはちゃんと仕上がるって分かってるのだけど、その途上はいつもね。
英語を教えるみたいにいつでも迷いなくオートマティックに、ってわけにはいかない。

いや、英語を教えるのだって常によりよいやり方を探してはいますよ。
でも、少なくとも文法事項とか単語の意味とかは毎回変わったりしないでしょう。
絵においては、毎回文法が変わるのですよ。
そこに何色を置くのが正しいのかっていうのは、やってみるまで分からない。

だから後戻りできるっていうのがすごく大事。
だからアナログの色鉛筆が好き。
いちどに大きな平面を塗るのには適していなくて手間がかかるけど。。
消しゴムで簡単に消えるし
消しゴムで消したとこにまた味が出るので。

今回は注文仕事ということもあり、あまり主観を入れない方がいいかなと思って、なるだけ写真に忠実に描きこんだ。
色調のトーンは変えたけど。。
でも、ラインに関しては、写真に忠実なあまりちょっと正確すぎて面白みに欠けたかも。。
設計図を引こうって話じゃないのだから。
歪みや主観こそがアートなのにね。
そのあたりのバランスのとり方も、今後の課題かも。

   ***

ところで、プルーストのような緻密な感じは画風で表現できても、マドレーヌと紅茶の感じを風景画で表現するのは難しいなぁ…と思っていたのです。
Photoshopでいろいろいじって遊んでいたら、偶然、面白いものができた。
これはまさに、マドレーヌと紅茶のこっくりと甘い感じ!
クライアントさんも気に入っていたバージョンです。



イメージ>色調補正>グラデーションだったかな、そのなかの一バージョンです。
さらに、背景色と描画色を変えることで色々な効果が得られることが判明。

 

私がいいなと思ったバージョン。
ブルー系のは、カーテンとかクッションカバーの柄によくないですか?
テキスタイルのデザインをする人ってこういうふうに作っているに違いないw
黒に紫のは、スクラッチボードみたい。

長年使っていたPhotoshopにこんな機能を発見したのは、自分ちの屋根裏部屋を探検するみたいな楽しさ。
思わぬ副産物でした。

とりあえず初回、クライアントさんにも満足していただけたし、よかった!
今後もガンガン手を挙げていきますよ。
それとともに、ポートフォリオを整備する過程で自分の過去の作品をきちんと整理して管理するシステムを作り直すことにもなって、一石二鳥。

私の<ココナラ>のページはこちら。
https://coconala.com/users/1974584
現在、イラストと翻訳の仕事をお受けしています。
ポートフォリオはこちらです。眺めるだけでもなかなか楽しいと思いますよ。よかったら。
https://coconala.com/users/1974584/portfolios?anchor=portfolios























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