2011年06月25日

旅行メモ2011 その15 サフロンにて3

そんな人生もある 2

さいしょの晩に会った、陽気な若い4人組。
ポーランド人とスペイン人と日本人の女の子、それにアルゼンチンの男の子。
istu という寿司チェーンのロンドンの店で働く同僚仲間なのだという。

はじめistu と聞いた時には知らなくて、ピンと来なかったけど、その後ロンドンで2,3店舗見かけた。
ヒースローの中にも入っていた。

夕食のあと、<たのしい川べ>にでも出てきそうな居心地のいい居間で、みんなでノリノリで歌をうたいながらジュンガをやって盛り上がっていた。
私も半ば強制的にひっぱりこまれていっしょにジュンガをやるはめに。

日本人の女の子は、その年よく見かけた胸元の大きく開いたデザインのサマードレスを着こなして、物腰といい口のきき方といいすっかり現地慣れした感じ。
はじめ洗面所ですれ違ったとき、完璧無視された。
あとで居間で会って、「日本人だったんですねー」と。
うわー、やな感じ。
でも、気にしないことにする。

こういう感じの子は、どこ行ってもいる。
あまりにふつうに向こう慣れして、ちょっと押しが強すぎて、かなり鼻につく。
でも、本人はとくに悪意がないのだから、そういうものと思って接するしかない。

話聞くと、2年近くイギリスにいるのだという。
さいしょワーホリで来たのだが、延長してもらったのだという。

えーっ、そんなことできるんですか?

うん、いろいろ調べて、聞いてまわって。
こんど一回日本に帰って、すぐまた戻るの。
こんどは留学ビザで来る。
7月から、留学ビザでは就労がいっさい禁止になるの。
ひどい話でしょ?
だから、6月のあいだにまた来る。

さいしょ聞いたときは、羨望でキューンと身が引き締まる思いだった。
何が何でもイギリスにいたいんだな、この子。
まぁ、それは私も同じだけど、でも・・・
でも、ここまでなりふり構わずしがみつく根性は、正直私にはないな。

この子と自分の立場を入れ替えられるとして、今さら寿司チェーンの店員としてイギリスにとどまりたいと思うだろうか。
イギリスで仕事をするなら、私はやっぱり、自分のライフワークに係わる仕事をしたい。
文学とか舞台に係わる仕事を。
そして、最終的には自分の夢をかなえることを・・・イギリスで自分の本を出す、自分の作品を舞台にかけるということを目指すだろう。

この子が、ただイギリスにいつづけるというほかに何を目指しているのかは知らないけれど、たぶんそれは私と同じものではない。
だから私は私で自分の目指すもののために、別な仕方で努力しなければならないのだろう。
そして、何をどう努力するかというところから始めて自分で見つけ出していかなくてはならないのだろう。


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Posted by 中島迂生 at 05:27Comments(0)英國紀2011

2011年06月20日

旅行メモ2011 その14 サフロンにて2

そんな人生もある その1

サフロンで同室になったオランダ人の女性。
さばさばした乾いた口調で話し、さばさばした乾いた金髪を束ねていた。
スタイルがよく、きれいな人だったが、とても若いというわけではなかった。
30代か、もしかしたら40代。
英語がとてもうまかった。
言われなければネイティヴと思ったくらいだ。

目の上のところを怪我していた。
ここ来る前にケンブリッジのユースのシャワー室で滑って転んで、何針か縫うはめになったのだという。
傷跡が残らないようにクリームを塗ってほしいと頼んだが、病院であっさり「変わんないわよ」と言われたとか。
うん、分かる。
イギリスってけっこうそういうところある。
そんなことがあったにもかかわらず、彼女はめげて帰ったりしなかった。

ケンブリッジか、できればこのサフロンで英語の教師の仕事を見つけたいと言っていた。
仕事を探す目的で来ていたのだ。
EU加盟国の人びとには、イギリスはがらっと寛容だ。

できればサフロンがいいわ。
ケンブリッジは、なんかビジネスの場所って感じで、ドライでちょっと冷たい。
この町はずいぶん違う。
お年寄りが多いし、小さい子供も多いし、人びとが生活してる場所って感じがするわ。

それにしても、思い切りよく人生半ばで荷物をまとめて、しかも英語圏で英語を教えに来たものだ。

Yeah I know it's hard to find a job, but isn't it worth trying?

うん。その心意気だけでもスゴイと思う。

けっこう昔、たしかサリー州のどっかでホームステイして英語を学んでいたのだという。
アナタもほんとに英語を身につけたいならホームステイして、四六時中英語環境のなかで過ごすといいわよ。
私はおかげでずいぶん上達した。

それからオランダに戻ってずっと働いていたけど、うーん、すごくストレスのたまる生活でね。
ひとつには、オランダは人がいっぱいいすぎるのだと思う。
オランダはいま、ものすごい勢いで人口が増えているの。

いいなぁEUの人たちは、気軽に仕事探しに来れて。
我々非EUはなかなかそういうわけにいかないですからね。

そう言うと、

そりゃ、条件が違うのは知ってるけど。
でも、働きたいんなら、ひとのこと羨んでないでとにかく探してみればいいんじゃないの?
EUじゃなくたって、なんか方法はあるはずでしょ。

そう言われるとそんな気がしてきた。
じっさい身を賭して探しに来てる人に言われると大きい。

やってみもしないうちからどうせだめだと決めつけて諦めないほうがいいのかも。

それから例によって、イギリスの建築や景観保存のすばらしさについての話になる。

私が前にイギリスに住んでいたのは相当昔だけど、いま戻ってみるとあれから大して変わってないような気がするわね。

It was a quite many years ago that I lived in UK, but actually, little seems to have changed since.

I think it's maybe... bit old-fashioned, but you know, in a good way.

Yeah yeah, can't agree more!

I feel it's quite... と言って考えこみ、コトバを探しているので、ちょっと割りこんでみる。

...To me, it feels like so reliable.

Yeah you're right.

と同意してくれた。

そう。たとえば reliable とか、stable とか、あとはマイクのコトバを借りれば observant とか・・・

イギリスのあの感じ。
この景色、50年前もそんな変わんなかったんだろうな、50年後もたぶんそんな変わってないだろうな、そういう感慨を抱かせるあの感じ。・・・

私がこの国でコトバを交わした人の多くが、独特のあの感じを愛していた。

いいカフェ知らない?

と聞かれて、まず Cafe Cou Cou を教えてあげた。
でも、インターネットが目的だと聞いて、公共図書館を紹介する。
ここは滞在中私もお世話になったところで、旅行者でも誰でも、登録してカードを作れば無料でネットを使うことができる。

この町にいたあいだ、図書館で彼女の姿を何度も見かけた。

無事仕事を見つけて落ち着けただろうか、今でも気になる。
連絡先は、交換しなかった。
地球のどこかで、また会えるだろう。

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Posted by 中島迂生 at 22:34Comments(2)英國紀2011

2011年06月15日

旅行メモ2011 その13 サフロンにて

23 Apl

渡り鳥が帰るように
いつも必ず訪れる場所がある
サフロン・ウォールデンは私にとってそんな町のひとつ

中世からの歴史ある古い街並み
サフロンはサフランで、昔サフランの栽培をしていたらしい
よく知らないけど何かクウェイカー教徒とのつながりが深いらしい

ハイ・ストリートにバスで着いたのが夕方の4時くらい
宿のレセプションが開くのが5時だから、ちょっと時間をつぶさなきゃ
でも荷物重いからあまり動きたくない

Key Hotel のひとつ手前でしぜんと足が路地へ向いて 気がついたら Cafe Cou Cou が目の前にあらわれた
町じゅうでいちばんゆっくりできるところ
5年ぶりなのに体が覚えていたみたい
5年ぶりだけど全然変わってない

白とナチュラルウッドで、室内はもとより、階段から廊下からトイレまで統一された簡素であったかい調度

白壁に白いチューリップの絵を飾るセンスってちょっとすごいよね

お店の女の子たち、みんな金髪に黒のメイド服が似合ってほんとに可愛くて
よっぽど写真撮らせてくださいって声掛けようかと思ったけど忙しそうで気が引けて撮りそびれた

コーヒーと、ぱっと目にとまったので Rocky Road
白とピンクのマシュマロをまぜこんで固めたチョコレートケーキ
両方で £5 くらい

5時で閉まっちゃうところもよくよく古風だ

   ***

サフロン・ウォールデンのユースの建物は、なんとイギリス最古
15世紀くらいのハーフ・ティンバー
木組みがすごく密で、ハーフ・ティンバーでもイギリスがまだ緑豊かだった早期の建築であることを示す

レセプションで待ってた顔がなんか見覚えあるなと思ったら、5年前と同じマイクだった
顔は変わんないけど横にずいぶん大きくなってたな
向こうもあたしのこと覚えててくれた
しかもなんと名前まで

うれしくて話が弾んだ
好きな話題だとなぜか語彙にも困らず、いくらでも話せる
マイクとは感覚が合う
あたし、イギリスでも変わり者に見られることが多かったのだけど
こんなにしつこく何度も来るほどこの町が好きなのを、マイクは分かってくれる
日本では民間の古い建築が法律で守られていないことを、いっしょに嘆いてくれる
電車に乗るよりわざわざ時間のかかるバスを選ぶほうに共感してくれる

日本の震災のごたごたを知ってて、大変だったねって
それでいまこのときにまたイギリスに来たわけを説明する

Then I thought, if I were to die tomorrow, what should I do? ...Go to England!!! So that's why I'm here again.

でも、こっちでもショッキングな話があった
歴史あるここのユース、7月で閉まっちゃうんだって
ほんとは3月で閉まる予定だったんだって
まあ、建物自体が壊されることはないけどね
あとで見たらたしかに sale agreed の sign があったけど、何と! ショック

Things change, things come and go!
So that's now I admire my decision!
How lucky I am, so this is my very last chance to be here anymore!!!

けど、閉めたあと半年か1年くらい旅に出ると言っていた
日本にも行きたいって
それはいいね
じゃ、日本に来るときは連絡してね
案内するから

チェックインして、荷物をおいて、それから食堂や、居間や、寝室や、それから中庭に出て、庭木や日時計やガーデンテーブルのあいだをゆっくり歩きまわる

レンガの壁や、階段の窓にかかってる青灰色のこまかい柄の木綿のカーテンや、中庭に向かって開けっぱなしのドアのところに、庭を眺める用に置いてある木の椅子や、花の散りかけたりんごの木や・・・
ほとんどなんにも変わってない
ああ
帰ってきたな

夜、ぶらっと町の散歩に出かける
ハイ・ストリート沿いにいくつもあるパブには人がたくさんいて、みんなガヤガヤしゃべってる
地元のコミュニティって感じで入りづらい
結局どこも入らずに帰ってきた

なんか悲しくなった
もう累計半年はイギリスにいるのに
でもまだたったの半年か
ほんとはもう この国に飽きたい
何度来ても結局同じ、来てもしょうがないじゃん、みたいになりたい
とっくに日本に飽きてるように
この国にも早く飽きたい

でもとてもまだ
あまりに美しくて あまりに汲めども尽きせぬディテールがありすぎて
とてもまだ・・・
何度でも来てしまう
イミグレはめんどくさいし 荷造りは大変だし 重い荷物もってうろうろするのもうんざりなのに
I cannot grow it out yet
Way too far...

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Posted by 中島迂生 at 04:49Comments(0)英國紀2011