2009年06月25日

初演備忘・背景幕、会場選び

 物語において舞台となる土地の様相が重要であるように、演劇において会場の立地・構成は重要だ。
 そしてこの点、背景幕とかセット(今回はセットはないけど)って思いのほか重要だと思うのだ。

 現代演劇の多くはろくな背景をつくってないのが多い気がする・・・見ていてあまり楽しくない。
 その代わりにやたらセリフが多くて、長くて。
 でも、ほんとはみんな、できたら作りたいんじゃないかと思うの。
 あえてミニマリズムとか象徴主義とかいうよりも、財政上の事情とか、つくってる暇がないとか、あるいは単につくるのがめんどくさいとか、のように私には見える。

 私が見ていて楽しいと思うのは、リヴァーダンスとか、浜崎あゆみのコンサートとか、昔のマリア・カラスのステージとか、そういうの。
 手間もお金もかかっているのだろうけれど、見ていてほんとに楽しい。
 できたらあんなふうなのを、っていうか、もっと全然こじんまりでいいからともかくできるだけ視覚的にも楽しいステージを、できたら提供したいと思う。

 今回の野外公演ではとにかく会場が大きかったのであまり目立たなかったと思うけれど、実は、すごい大変だった。
 <エニス>の背景は、7枚のシーツを使って鉛筆で下絵を描き、マジックで輪郭をとり、スプレー式の塗料で色を塗って、クレパスで細部を仕上げた。
 6枚は川岸の修道院跡と木立の風景、真ん中にもってくる1枚は炎に包まれた金色の十字架。
 くわしく言うと、上手側の3枚は川と木立と月で妖精たちの領域を表わしており、絵としてつながってはいるけれど下手側の3枚は修道院跡とグレイヴヤードで、修道士たちの領域を表わしている。じっさいエニスでスケッチしたのをもとに描いた。
 炎と十字架の絵は、主題曲の雅歌の The Flame of Jah というフレーズを視覚化したものだ。 
(これは、「十字架が燃やされているように見える」という意見があって、自分としてはそんなつもりは少しもなかったので、おおあわてで、28日公演のあとでパレードに参加してくださることになっていた神父さんが見てショックを受けないよう、急いで教会に手紙を書いて、何ら冒瀆を意図したものではないことを説明した。)

 制作に当たって何が大変って、絵を描く自体はともかく、作業場所を確保するのが最大の問題だった。
 下絵までは公民館の広い床を使って問題なくできたのだが、着色となると、シンナー系のスプレーを使ったのものだから「臭い!」「危険だ!」とあっちでもこっちでも公民館を追い出された。
 でも、これが広い面を着色するにはいちばん都合よかったのだ。アクリル系で、たちまち乾くので、作業を終えたらすぐたためるし。
 でも、そのうちほんとに日数も尽きてきて困った・・・なんかジュ・テーム・モワ・ノン・プリュみたい、せっぱつまってはいるんだけどどことなくコミカルで笑ってしまう。(あ、知らない人は、知らなくていいですからね。)
 
 結局、大方はベランダで、自分の部屋の軒先にクリップとS字カンで一枚ずつ吊るして着色していった。
 一枚ずつしか吊るせなかったので、絵の端と端が微妙にちゃんとつながっていなかったりする。
 それも天気によりけりで、あまり日が強いとまぶしくて色調がよく分かんなくなるし、あまり風が強いとバタバタ吹きまくられてうまくスプレーできないし、雨の日はもちろんできないし。
 さいごの日に十字架の絵を仕上げていたのだけど、その日も風が強くてさんざん吹きまくられたあげく、もう頭にきて最後の手段をとった。
 部屋の中に持ちこんで、窓を締め切り、部屋のカーテンレールから吊るしてやったのだ。
 養生もカバーもしているひまがなかったので、おかげで部屋中がうっすらと金色とオレンジのスプレー粉の粒子をかぶって着色されてしまった。
 シンナー臭で窒息しかけたし、いろいろと面倒なことになったが、とにかく完成。 

 これらは、本来は竹園公民館ホールの舞台仕様なのだ。写真のような具合に使う予定で、こうするとステージの壁面がちょうどすっかり覆われるのだった。これで上演したら絵としてばっちり映えたと思う。
 
 でも、これも問題がないわけではなかった。
 写真では真ん中以外の6枚は、それぞれ上部に5箇所ずつ、小さな目玉クリップにS字カンを通して、外れないようにS字の下側の輪をプライヤーで閉じたものをつけて、それで吊るしている。
 壁面にもともと薄汚れた水色のカーテンがかかっていて、理論的にはそれをとっぱらって背景幕の方をカーテンとして吊るせるはずなんだけど、カーテンレールがあまりに古いのでさびついてしまい、滑車のひとつひとつが、ちゃんと動くものもあればひっかかって動かないものもあり、という状態で、使えない。
 で、仕方ないからレールそのものの、内側に折れ上がったとことにS字カンをひっかけていくんだけど、これが高さ的に、私がピアノのいすの上にのっかってめいっぱい背伸びしてやっと届くくらいで、レールの折れ上がり具合とS字カンのカーヴ具合との折り合いが悪くてなかなかひっかかんないしなかなか外れないといった有様なのだ、時間ばかり食うしいらいらするし。

 真ん中の十字架の絵は、4箇所を目玉クリップに吸盤フックをつなげたものを使って、上部の蛍光灯の平らな面にくっつけている。屋内公演ではこのうしろのスペースが修道院長の控え場所になる予定だったので、うしろにスペースを空ける必要があったのだ。
 けれど、じっさいやってみると吸盤フックがあまりきちんとくっつかずにボトボト落ちてきて、みっともいいものじゃなかった。屋内公演やらずにすんで正解だったかもしれない。

 結局、ぜんぶひとりで制作。
 まさかそんなことになるとは思ってなかった。みんなでやるもんだと思ってた。
 じっさい、絵のうまい人は何人かいたし。
 でも、ほかの人がへたに手を加えると有機的統一性がなくなるから、みたいなことを言われて、それもそうだなと思ったのと(決してその人は自分が手伝うのめんどくさいからそう言ったわけじゃない)、別の人に、棺おけ作ってくれませんか? って頼んだら、イヤだったらしくて、「・・・それよりは、背景の絵を描く方が、まし」って言われてしまった。
 なんか、その言い方が、ヤだった。
 「・・・あたしの劇団の初演の、大切な背景なのに、『まし』とか思われて手伝われたくないな」って思っちゃって。
 だったらいいよ、自分でやるよ、と思った。

 さいしょからこんな大がかりな、めんどくさいことをやるつもりはなかった。
 これも、紆余曲折を経てこんなかたちになったのだった。

 背景はぜひともほしかったが、さいしょは幕を作るつもりはなかった。
 もともと、この背景幕の下絵になっているA4版の絵があって(サイトにアップしている原文のさいしょのところに載せてるやつ)、これを描くにもけっこう時間がかかってるのだ。
 これをプロジェクターでスクリーンに大写しして、そのまま背景として使ってしまおう、それで充分、と思っていた。
 リヴァー・ダンスの背景なども、見てるとそんなふうにやってる感じだ。
 ところが、それをやるにはいろいろと技術的な問題があって。

 ふつうに前面客席からプロジェクターをあてると、スクリーンに役者の影が映ってしまい、役者そのものにも背景の色が映ってしまう。
 それを避けるには、プロジェクターの光が役者の動きと重ならないように天井に設置するか、あるいはスクリーンの裏側からあてるかする必要があった。
 それにはそういうことができる会場が必要になってくる。
 竹園ではできるはずもなし。
 ノバホールにも行ってみた。そんなに高くない。週末の夜の時間帯で2万円台で借りられる。
 素人の初演の分際で恐れ多いとは思わなかった。
 素人の初演だからこそ、ちゃんとした会場でやった方がいいと思った。
 それは衣裳やかつらに凝ったのも同じ。
 電話できいたら、じっさいに見学させてくれた。担当の人がわざわざ出てきて、巨大なスクリーンを降ろしてくれて感激。
 でも、やはり天井からプロジェクターは無理だと言われた。
 裏から映しても、サイズ的にスクリーンいっぱいにはならないそうだ。
 カピオの方がそういう点では設備が整っていますよ、と言ってくれたのだが、カピオは、行かなかった。
 どうも、あんまりカピオって感じじゃないと思った。うまく言えないけど。

 で、結局、ノバホールでもだめなら、いいや、いちばん当初の構想どおり、野外で! と。
 雨天時会場として竹園を押さえることにした。
 だけど、年明けにじっさいやってみて分かったのだけれど、竹園ホールのあのぱっとしないうす水色のカーテンを背にすると、灰色の修道衣が実に情けなくくすんでしまうのだった。
 どうしても、背景がないとさまにならなかった。
 雨天時のためだけでもどうしてもつくらなきゃ、ということになり、結局、あー、やるしかない! というわけで、あのめんどくさい作業を観念したというわけ。
 それも、さいしょはシーツ2枚もあればいいやと思っていた。
 でも、じっさいつくっていって吊るしてみると、背景のない部分が実に所在無くまのびした感じで、結局、壁面ぜんぶを背景画で埋めないではいられなくなってしまった。
 だから、もともとあの背景は、結局雨天時の竹園用というわけなのだ。

 でも、こんなにまでがんばってつくったのを、どうしたって野外でも使わないわけにいかなかった。
 もとよりあんな広いところを、壁面ぜんぶ埋めるなんてできっこない。
 どういう方法が可能か、もっとも効果的か、色々と考えたすえ、おもに両側の石の円柱部分を使うことにし、3枚ずつ、それぞれ上手と下手の手前の3本にもってきて、炎と十字架はどうしても真ん中にもってこないわけにいかないから、普段は壁面に流れている滝をとめてもらって、そこの小さな突起に四隅を縛りつけて配することにした。
 これがけっこう大変で、公演のたびに下の管理事務所からありったけ脚立を借りてきて、団員さんたちの時間もエネルギーもずいぶん注ぎこませてしまうことになった。
 円柱の方は、まず二人がかりで脚立に乗って柱の上部にロープをまきつけ、そこに各シーツ上部のS字カンをひっかけていて、下部も同じくロープで巻いて固定。壁面の十字架は、手前に滝の水を受けとめる水路があって、それをまたいで脚立をたてかけて登っていかなければならないので、さらに大変だった。

 初日は、それでいった。
 ところが、風がすごく強くて、クリップでとめたところがたちまち吹っ飛ばされてしまい、円柱のまわりでかっこわるくバタついたり、めくれあがったり裏返ったり旗みたくはためいたり、さんざんなことになった。
 あまりにみっともなくて、これでは全然ない方がまだましなくらいだった。
(「まし」というコトバは、こんなふうに使われたい。)

 初日は、夜公演もあったので、そのときには、そのみっともない状態の背景幕をぜんぶとっぱらってしまった。
 あそこは、来てくださった方はご存じのとおり、会場じたいがすごくいい感じに物語のイメージに合っているので(石の円柱は古い修道院あとのラウンド・タワーの質感を思い起こさせる)、なくてもいいことはよかった。
 でも、やっぱりちょっと殺風景で淋しいなという感じはした。
 次の日は悪天候のため公演自体がキャンセル。
 なんとも運悪く、ちょうどこの日だけ、竹園がふさがっていてとれなかったのだ。

 次の週にも公演があったから、それまでの一週間で7枚ぜんぶの四隅に小さなひもの輪っかを縫いつけた。
 7×4=28箇所。
 で、次の週にはその輪っかのところをロープにしっかり結びつけて、その週末も風強かったのだけど、何とかきっちりついたまま、無事終了。
 2週間にわたる公演で、大変だった半面、1週目の反省点をすぐ次回に生かせたのはよかった。
 それはすごくよかったな。

 それにしても、毎回毎回脚立を借りに行って、6本の円柱と壁面に幕を配し、終わったらまた外して、しわにならないようにたたんで、脚立を返しに行き・・・ っていうのはほんとにきつかった。
 しまいには団員のみならずセッション仲間やボランティアの方や、ユーロブラスのお客様まで! 巻き込んで手伝っていただくことになってしまった。(手伝っていただいた方々、ほんとすみませんでした。)
 こういうことがまたあってはいけない。何とか考えなくては。

 ・・・にもかかわらず。
 後日、公演を見に来てくれた方と話していたとき、
「え、背景? ありましたっけそんなの。気がつかなかった」
 と言われてしまった。
 ・・・・ガーン・・・・

 ・・・7枚ぜんぶ、壁面の滝のところにもってきた方がよかったかもしれないな。
 いずれにしても、あの会場では舞台壁面から客席まですごく距離があるので、目に入ってもちっちゃく見えてしまっただろうことに変わりはあるまい。
 さいごのほうの公演では、セリフが聞こえにくいというので、役者全員、めいっぱい前のほうに出てきてしゃべるようにしていたから、なおさら。

 次からは、この問題、どうしよう?
 次からも、新作のたびにまた7枚のシーツに背景を描くのか?
 ・・・正直、今はちょっと考えたくない・・・

  後記・大判のスクリーン布みたいなのに印刷してもらえるところを見つけたので、その方向で検討中。
    お金はかかるでしょうが、手づくりでも材料費がけっこうかかるのは同じなのです。


同じカテゴリー(初演備忘)の記事
 初演備忘・会場設営、段取り、劇団のあり方を模索/次作の方向性 (2009-06-27 05:00)
 初演備忘・照明、音響、撮影 (2009-06-27 04:35)
 初演備忘・稽古、演出、ダンス (2009-06-27 04:08)
 初演備忘・人集め (2009-06-25 04:15)
 初演備忘・衣裳、道具類 (2009-06-25 03:49)
 エデンを逃れて~中島迂生のキリスト教的背景~ (2009-06-25 02:19)
Posted by 中島迂生 at 03:24│Comments(0)初演備忘
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。