2018年07月14日

高校の話~2 信頼の先に~



前記事から引き続いて、通っていた高校のことを書いています。

私、授業でとりわけ好きだったのは、K先生の英語です。
テキストを、生徒にあてて読ませるだけでなく、よく自分でも読んでくれました。
K先生の声は、色で言うとちょっぴりくすんだエメラルドグリーン。
その少し鼻にかかった、やわらかな声の調子が聞いていてとても心地よく、音楽を聞いているようです。
クレメンタインの歌を歌ってくれたのも印象的だったな。

生徒に質問して考えさせもしましたが、むだに引っぱることはなく、どんどん正解を言って、解説してくれました。
そういう進め方は自分に合っていた。
考えたって分からないものは分からないのだから、さいしょから、ひたすら正しいことを教えてほしい。
骨董品の本物を見る目を培うには、ひたすら本物に触れ続けるしかないっていう。
偽物を見ても何にもならないって。
語学の勉強も同じだと思うのです。

人間的にも尊敬する先生でした。
いつも穏やかで、私がめんどくさい質問をしても、いちいち丁寧に答えてくれて。
なんか用事があって職員室までついていくと、ドアのところをちょっと手で押さえてくれたりしました。
万事そんな生き方をしていた…あとから入る人のために、ドアのところをちょっと押さえていてくれるような生き方を。

でも私、この先生のことでとくに衝撃的だったのは… 一度、こんなことがありました。

テキストの中で「核の冬」(nuclear winter) というコトバが出てきたことがあって、先生、それを知らなかったのです。
先生も神様ではありませんから、そりゃ、知らないコトバだってあります。
で、先生は、ここはちょっと分からない、と正直に言っていた。
先生なのに謙虚な人です。

ググるとか、まだ一般的でなかった頃の話です。
辞書引いて載ってるような用語でもなかったし。

ところで、私はたまたまそれを知っていた。
単に、それについて扱ったテレビ番組を見たことがあったからです。
で、差し出がましいかな…と迷ったのですが、一応ちょっと、休み時間に職員室の先生のところへ行って、私が聞いたところによると「核の冬」っていうのはこうこうこうで、と図に描いて説明しました。
そのあとお手洗いに行ってから教室に戻ったので、5分くらい、次の授業に遅れてしまった。

そのとき、たまたま2時間つづきで、次の授業も英語でした。
私が遅れてこっそりうしろから滑りこむと、なんと、先生、さっき私が言ったとおりのことを、クラス全員を前に説明しているのです。
黒板に、私の描いた図までそっくり再現して!

いまこんな話をすると、
人から聞いたことを、確かめもせずにそのまま拡散するってどうよ? みたいに言う人があるかもしれません。
いや、私自身、ちょっとはそう思いましたよ。
先生ー! そんなことして、私がもし間違ってたらどうするんです?!って。
でも、大丈夫。K先生なら、また全員に「ごめん、ちょっと違っていたみたい」とふつーにフラットに謝って、改めて正しい情報を伝えたはずです。

私はただ、そのこの世のものとは思えない謙虚さと、自分の言ったことをこんなにもそっくり信用してくれたことに、度肝を抜かれてしまったのです。
これほどまでの、無条件の、圧倒的な信頼って。度肝を抜かれた… 親からさえ、ここまで信頼されたことはない。
私、この人のことは一生尊敬するだろうな、と思いました。
もうずーっと会っていないけれど、今ももちろん、大尊敬です。

この先生に限らず、私のことに限らず。
あの学校では、生徒たちみんな、すごく信頼されていたし、尊重されている感じがした。
なんか、そういう空気があった。
君たちは、大丈夫! っていう無言の信頼が、まちがいなく彼らの自信や自尊心をも育んでいたと思う。
あの独特な、なごやかでのんびりした空気は、そうして生まれていたのです、きっと。
あんなに居心地よかったのも、卒業してからもたびたび遊びにいきたくなったのも、きっとそのせい。

K先生には、受験まで3年間お世話になりました。
私、ぜんぜん勉強してなかったのです。
進学する気なかったので… 高校出たら、こんどこそパン屋さんでバイトしながら作家を目指そう、と思っていたのでw

少し気が変わって受験勉強らしきことを始めたの、半年前くらい。
志望校を決めたのなんて、たしか11月くらい。
それも自分で見つけたのではなく、K先生が探してきてくれたのです。
好きな教科しか勉強してなかったら、その中で受けられそうなところを探してくれたみたい。
担任でさえなかったのに。ほんとに、なんでそこまでしてくれたのでしょう。

「オマエちょっとここ受けてみない?」
「いやー無理っしょ!」
というのが、さいしょの反応でした。
だって考えてみたこともない難関校でしたもの。
「そう? いけると思うよ?」

そう言われると、思えてきた。
K先生がいけると思ってくれてるのなら、いけるんじゃないか。
たとえ自分でそう思えなくても。
じっさいエンジンがかかると、「絶対いく!」しか思わなくなった。

だから、これも信頼の力なのです。私自身の力じゃないのです。
だれかから信じられた、となったら、「絶対いく!」しか考えなくなるのです。

事実があるから信じるだけじゃない。
信じることの先に事実が生まれる。
それ、理想論じゃなく、ほんとのことなのですよね。
いま思うと、そのことをほんとに、身をもって教えられた経験だったなと思います。
K先生、お元気かな…。
















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