2014年01月29日

マエストーソ氏の気象学講義

*これは中学生のときに書いたプルムセクラの物語の追記エピソード。

    夢想集ムーア・イーフォック 10
    マエストーソ氏の気象学講義


 どの町にいるときもそうだったが、マエストーソ氏は、日曜日になると広場のベンチに腰かけて新聞を読むのが好きだった。子供が鳩の群れとたわむれていたり、アイスクリーム売りや手回しオルガン弾きが出ていたりすると、まことに日曜日的な気分になるからだ。
 そんなわけで、彼はこの日も町の広場にやって来ていた。
 だいぶ雲が出ていたが、一応陽も照っていて、人々はみんなそのわずかなぬくもりを求め、トカゲのようにじっとベンチにへばりついていた。
 さて、新聞を広げたはいいが、どうも誰かに見られているような気がして落ちつかない。マエストーソ氏がふと目をあげると、目に入ったのは恐ろしくよれよれの、ものものしいスコラーズ・ガウンを着こみ、ワシのような鋭い目にめがねをはめこんだ、背の高い老紳士だった。
 彼はマエストーソ氏の方へつかつかと歩み寄ってくると、
「失礼ですが」
と手を差しのべ、
「<訳わかんない>大学長のグラーヴェと申します」
と名乗った。
「地質学者のマエストーソです」
 マエストーソ氏も、いささかびっくりしながら立ち上がり、挨拶を返した。
「貴殿が本校の講堂上空を空中旅行なさっとるのを拝見いたしましたぞ」
 学長氏はマエストーソ氏のとなりに腰をおろしながら、大変に重々しい調子で言った。
「そりゃ、どうも」
 マエストーソ氏はどういう顔をしたものか決めかねて答えた。
「すみませんでした、無様な格好をさらしてしまって。ですが、あのとき、急いでいたもので・・・」
「大いに結構」
 学長氏はにこりともせずに言った。
「その--何かお気にさわりましたでしょうか? --あの、お宅の講堂って、昔の修道院みたいなあのレンガのたてものですか?」
「さよう、ま、ご静聴くだされ」
 学長氏は、マエストーソ氏の顔をきびしい目つきで見ながらはじめた。
「本校の気象学の講義は、ラルゴ氏なる年配の教授に担当していただいておりますじゃ。頭脳明晰にして人柄温厚、まことに結構なる人物なのですがな。一つ、困った問題がありまして、それというのも、小生が小耳にはさんだところによれば、何でも、彼の講義は退屈だ、いやそれどころかまるで子守歌だ、というのですじゃ。小生は平生より、流言を鵜呑みにせぬことを信条としておりますゆえ、折りを見て、教授が講義なさっとる実験室に顔を出しましたじゃ。しかれば、これがまことに真実であって、ものの五分とたたぬうち、小生は舟上の人となっておったのです。推察せらるるに、かの教授の講義する調子には、何かこう、人をして眠りに陥らしむる特別な波長が存するのではないかと。ともあれ、現状のままであってはならぬ、いずれかの処置をとらねば、本校の築ききたる輝かしい評判に傷がつくことがないとも限らぬと、かくのごとき危惧を抱いたゆえんですじゃ。
「ところが、過日小生が本校講堂の鐘つき部屋より憂いに沈みつつ窓外の風景を概観しておりましたところ、何か珍妙な鳥のごときものが上空を飛行しているのを観察いたしまして--それがつまり貴殿だったわけですな。
「このとき、小生はおのれに申しました、『神にみ栄あれ! 是非ともあの紳士に気象学の特別講義をご依頼つかまつろうではないか。かくのごとく、日頃より上空にて気象現象の有為転変に親んできたる人にこそ、明朗闊達な気象学はのぞむべきもの。熱圏や成層圏に遊びなすったこともあろう、オーロラの下をかいくぐり、ラジオの電波を採取なすったりもしよう、色々の珍しい経験をお持ちであること間違いなし。彼の華々しい講義こそ、必ずや我らがラルゴ教授とその学生たちとの双方に活性化をもたらし、彼らの学究精神を大いに鼓吹するものとなろう』
「以上のようなわけで、小生<訳わかんない>大学長フェルディナンド・フォン・グラーヴェ、ここに<訳わかんない>大学を代表して、つつしんで特別講義の要請に参上したものでありますのじゃ」
 学長氏の長々しい口上が終わるとマエストーソ氏は、いったい自分が何を頼まれたのか分からなくてちょっとの間考えこんでしまったが、それが分かるとすぐさま異議を申し立てた。
「そりゃあ非常に光栄ですが、気象学ですって! あいにくと、私の専門は地質学なんですよ。そんな、急に別の畑で講義しろって言われたって、いくら何でも無茶じゃないですか」
「別の畑へ行けなどとは申しませぬぞ。気象学というのは、名目だけですじゃ。何となれば地質学風気象学でも結構、気象学流地質学でも結構。要は、ともかくも貴殿を本校へご招待したいのじゃ」
「しかし・・・私にも、仕事があります」
「そこを何とか、頼みますじゃ、<訳わかんない>大学の栄光と伝統のために、貴殿の貴重なる一日を、どうか犠牲にしてはくださらぬか」
「参ったな」
 マエストーソ氏は頭をかいた。
「それはいったい、いつの話です?」
「来週の火曜日の午後というのはいかがですかな。場所は、本校講堂に隣接せる実験棟--門を入って左側の、灰褐色の石材建築になる建物ですじゃ」
 マエストーソ氏はため息をついた。
「了解しました、何とかやってみましょう。しかし、言っときますが、もし万が一私の講義で学生さんたちが居眠りしてしまったとしても、責任はとれませんよ--」
 それを聞くと、学長氏は彼の手を固く握りしめ、マクベスでも読み上げるような調子で朗々と言った。
「おお、ありがたや、ありがたや。まことに幸いに存じますじゃ。大学一同、心よりの感謝を申し上げまする」

 翌日の月曜日、マエストーソ氏は七時半の汽車をつかまえ、駅五つばかり離れた、秘密の目的地まで出かけていった。
 行く先はいわくありげに四方を高いレンガ塀で囲われた、とある古ぼけた工場だ。マエストーソ氏は裏口からすたすた入ってゆくと、事務室の窓ガラスをコツコツ叩いて工場長を呼び出した。
 工場長とは前々から親しい間柄にあったとみえ、彼は氏の姿を認めると大喜びで迎え入れて、自らお茶を入れてもてなした。それから彼らは小一時間ばかり近況を報告しあったり、雑談したりしていたが、窓越しにとぎれとぎれに聞こえてくる会話というのは、たとえばこんな感じだった。

「・・・ああ、こっちは、相変わらずさ。仕事の方もはかどってるしね。それで、どうだい、君の方は?」
「うん、こっちも相変わらず、やってるよ・・・細々とね、しかし、困ったことに・・・」
「・・・そりゃ大変だな。でも、その鉱山はまだ閉鎖されてはいないんだね?」「まあ、今のところはね。しかし、明日にでもどうなるか分からんのだよ、君。ほら・・・例の半透明ウサギの原料だってね。幻の原石なんか、今じゃとても少なくなってしまって・・・」

 それがひとしきり終わって、マエストーソ氏はやっと本題に入り、今日こっちへ出向いた訳を打ち明けた。
 そのことで彼らはまたしばらく、ああでもない、こうでもないとやっていたが、やがて工場長が立ち上がり、マエストーソ氏を倉庫へ案内する。
 こうしてためつすがめつやったあと、マエストーソ氏のかばんには何種類かの秘密のサンプルがおさめられ、あとの必要品目は重たくてとても一人では持って帰れないというわけで、直接大学あてにダンボール詰めにして送ってもらう段取りになった。
 さて、マエストーソ氏は満足げな顔して帰ってくると、さっそく受話器を取りあげ、ダイヤルを回してプルムセクラを呼び出した。
 プルムセクラは例によって〆切に追われておおわらわになっているところだった。
「そんな無茶な。ボクはあさってまでに老人福祉法改正についてのデータをかき集めてきて、記事を仕上げなきゃいけないんですよ。後生だから勘弁してくださいよ」
「いや、そこを何とか。私だって仕事の予定が入っていたのに無理して割りこませたんだ。助手の助けがないと困るんだよ。いきなり本番てわけにはいかないから、どうしても予行演習が必要なんだ。どうか老人福祉法はちょっとおいといて、今すぐ私のところに来てくれ」
 というわけで、半時間後にプルムセクラは白衣におさまり、ビーカーやら試験管やらを手に忙しくかけまわっていた。
 暗くなる頃まで、グリーンハイツの一室からは何やら怪しげな光や煙がもれ、時折ドンパチいうのが聞こえてきたが、それもそのうち静かになった。

 かくて当日。
 プルムセクラは実験の段取りを記した台帳を抱え、実験棟の入り口のところに積みあげられた二つのダンボールの上に腰かけて足をぶらぶらさせながら、由緒ある<訳わかんない>講堂の時計台を眺めていた。これぞ世界に名だたる<訳わかんない>大学のシンボルだ。そのすばらしさを伝え聞いてははるか遠くからたくさんの学生たちが、学問を修めにやってくる。
 大学の門戸はだれに対しても開かれていて、空間的に入りきれる限りだれでも好きな授業を聞いていいことになっている。たとえば八百屋のおばさんだって、古代メソポタミア文明に興味があるので学びたいということであれば、だれかに店番を頼んでおいてその授業だけ出ることもできる。中学生なんかも届け出さえ出せば学校を抜け出して、もっと高度な授業を聞きにいってかまわない。ただ、その分虫食いになったところは自分で勉強しなくちゃならないが。
 プルムセクラも前から興味は持っていたのだが、実際に門をくぐるのははじめてだった。新聞記者は忙しいのだ。でも、もうちょっと暇ができたら、学問も悪くはないと思う。
 しばらくしてマエストーソ氏が、朝市で買ってきた新鮮なオレンジのかごを手にしてやってきた。そこで二人はダンボールを中に運び入れ、熱心に準備にとりかかる。お昼になるとプルムセクラが学食で紅茶とサンドウィッチを買ってきて、略式の昼ごはんだ。
「これはほんとは太陽にするんだが」
と言ってマエストーソ氏はオレンジを一つ取りあげた。
「まあ、一つくらいいいだろう」

 午後一時きっかり、実験室は学生でいっぱいになった。後ろの方には学長と数人の教授たち、どうやらラルゴ教授とおぼしき人の姿もあった。
「さてと、みなさん」
と、マエストーソ氏は威厳たっぷり、教壇に立ってやりはじめた。
「この授業は気象学だということですが、困ったことに私の専門は地質学なのです。で、どうしようかと迷いました。まあ、ほんとうは、どっちでも大した違いはないんでしょうがね。このたびは良心的に、気象学をやることにします。ただし、私自身がごく大ざっぱなところしか知らないもんですから、今日やるのはごく初歩的なものですよ」
 盛大な拍手。
「今日やるのはおきまりの気象パターンの小規模な再現、言ってみれば模型のおもちゃです」
 彼は続けた。
「まず第一に、気象について考える上で欠かせない要素は太陽です。すべてはここから始まります。みなさんもご存じのように、太陽は燃え盛る巨大なオレンジです。ですから理論的にはオレンジに火をつければ太陽になるのですがね」
 彼はオレンジのかごを教卓の前の実験テーブルの上にどんとのせた。それから、きらきら光る透明な液体の入った大きな瓶をかかげてみせた。
「これは太陽の光を圧搾して抽出したものです。言わば太陽エッセンスですな」 彼はその中身を洗面器にあけた。そしてオレンジを一つ取ると、その液の中にたっぷりとひたし、ひきあげたそれに火をつけた。
 ボン! とすさまじい音がしてオレンジは燃える炎に包まれ、実験室の天上近くまで上がっていった。
「あ、あんまり高く上がらないで。天井がこげてしまうからね。そうそう、そのへん」
 マエストーソ氏は太陽に向かって言うと、二つめのオレンジにとりかかった。やがて実験室の天井には六つの小さな太陽が明るくかがやいた。
「これが第一段階です。さて、太陽が出ると地表はあたためられ、水分が蒸発して雲ができる。みなさん、流しに水を張っていただけますか」
 そこで、いくつかある学生用実験テーブルの流しにはなみなみと水が張られた。
「これだけでは足りませんから、さっき助手のプルムセクラ君が大変苦労してこの大きな金だらい二つに水を張ってくれました。みなさん感謝してくださいよ。さて、大気圏にはさまざまな気流のうずや気圧の谷なんかがあって、天気や雲のようすに変化を与えます。そりゃもう、万華鏡みたいなもんです」
 言いながらマエストーソ氏は、あちらこちらにポンプとハンドルと目盛りのついた変な器具を配って歩いた。
「これは気圧調節器です。みなさん適当にハンドルをまわしてください」
 するとたちまち四方八方から風が吹きはじめ、羊雲やら入道雲やらうろこ雲やら、実にさまざまな形の雲が姿を現した。そのうちに実験室のすみの方に重っ苦しい感じの雲が吹きだまり、大つぶの雨をふらせはじめた。
「おっと、雨にぬれたくない人は気圧を高くして。はいはい、それでよろしい。--さて、雷のメカニズムについてはまだ完全には解明されていません。しかし簡単に言えば、空と地上とにそれぞれ電極があって、ふだんは大気が絶縁体の役割をしているのですが、これが何かのはずみでその役割を果たせなくなるとき、二つの電極にビリビリと電気が通じあう、とまあこういうわけです。何かのはずみというのはつまり低気圧ですね。低気圧というのは大気がうすっぺらくなるということであって、うすっぺらいと何でも突き破りやすくなるもんです。それで、と」
 マエストーソ氏はぴかぴか光る筒状のものをいくつか床に転がした。
「これはカミナリ電池です。プルムセクラ君、これをいくつか天井にも固定してくれるかね」
「雲がいっぱいあって天井が見えません、先生」
「それでは少し片づけなさい」
 そこでプルムセクラは脚立をたててのぼってゆき、掃除機で雲の一部を吸い取った。それからカミナリ電池を三つ、間隔をおいてネジで固定した。
「それでは、電池の近くにいる人は少し離れて」
 マエストーソ氏が気圧調節器を操作すると、ビリビリビリッ! とすさまじい閃光が走った。
「おっと危ない、避雷針を配るのを忘れてた! プルムセクラ君、大急ぎで配ってくれ」
 たたきつけるような雨がふり始めた。
 ガラガラドッシャーン! と実験室全体がふるえあがった。
 たてつづけに三つばかり雷が落ち、天井からはメリメリと不吉な音がして、見るとカミナリ電池をとりつけた箇所から細かいひびが広がっていた。
「ひゃっ、これはちょっとやりすぎた。ほんとは単三でやるべきだったんだ。ちょっと在庫がなかったもんだから・・・」
 マエストーソ氏は狼狽した。ところが、雲の間を妙な赤っぽい生き物がとびまわっているのに気がつくと、その顔はたちまち幸福でかがやきだした。
「おお!」
 彼はそいつのしっぽをつかまえると注意深くてのひらにのせた。
「お前は雷竜ではないか! 久しくお目にかかってなかったなあ。こんなちっちゃな実験でもできるとは知らなかった」
 彼はそのきゃしゃな生き物をいとおしげにながめた。
「お前、しばらく私といっしょに暮らさないか。色々やってみたい研究があるんだ」
「ええ、いいですよ」
 雷竜は答えて、てのひらの上で丸くなった。
「だが、ちょっと待てよ。お前は二酸化窒素を食べるんじゃなかったかね」
「そうですよ」
「参ったな。あれはあんまり手持ちがないんだ。こんど注文しておくが、届くまでに六ヵ月もかかる。それまでお前を乾燥保存しておいてもいいかね。どうせ水につけておけばもとに戻るんだろ」
「干しシイタケじゃないんだから」
 雷竜はふくれっ面をした。
「水になんかつけたら死んでしまいますよ。私を戻すときには電流につけておくんです」
「おお、そうか。分かった分かった」
 言いながらマエストーソ氏は雷竜をガウンのポケットにつめこみ、講義に戻った。

 とにもかくにもそれは大成功に終わった。
 からっぽになった実験室で、マエストーソ氏とプルムセクラはあと片づけをした。朝早くから忙しく働いていたので、プルムセクラはすっかり疲れていたが、同時に大きな満足を感じていた。マエストーソ氏も同じらしいことが、空気を通して感じられた。とっちらかった実験室じゅうに、何やらほっとした感じと、心地よいけだるさのようなものが満ちていた。
「またやってくれって頼まれたら、今度は何をやるんですか」
と、プルムセクラはたずねてみた。
「そうだなあ」
 マエストーソ氏はのんびりと言った。
「また頼まれたら・・・」
 いつまでたっても返事がないので、プルムセクラが顔をあげると、マエストーソ氏は試験ブラシを手にしたまま、ガラス張りの窓から空を眺めていた。
「見たまえ、プルムセクラ君--鮭の切り身のようだ・・・」
 その通り、窓いっぱいに、目のさめるようなサーモン・ピンクの夕焼け雲が広がっていた。プルムセクラはうっとりと見ほれた。
「見たまえよ--あんな色は、人間には決して真似できないなあ」
 部屋の中はそろそろ薄暗くなりかけていて、このもえたつ雲海のあかるさを一層きわだたせていた。
「--さあ」
 だいぶたってから、マエストーソ氏は我に返ったように言った。
「はやいとこ、片づけてしまおう。そこの試験管立てをとってくれ、プルムセクラ君」
 そのとき、その一瞬の光景に、プルムセクラはふしぎに心打たれるような深い感動を覚えた。
 この美しいピンクの雲海、それを背にしたマエストーソ氏の白衣姿、そして「そこの試験管立てをとってくれ--」ということば。それは映画の中のシーンみたいに、プルムセクラのまぶたにくっきりと焼きついた。
 今この瞬間が、このままずうっと続いたら--
 そんなことを考えているうち、マエストーソ氏はとうとう待ちくたびれたようだ。
「聞こえなかったかい? そこの試験管立てをとってくれるかね、プルムセクラ君」
 マエストーソ氏はおだやかにくりかえした。
 プルムセクラはふっとため息をつくと、ゆっくり試験管立てをとりあげて、彼のところへ持っていった。
 器具をすっかり片づけ、床や実験台なども掃除して、すみの方に泳いでいた雲のきれっぱしなんかをスーツケースの中におしこむと、もう夕闇があたりに迫っていた。プルムセクラがスーツケースを講堂の前まで運び、そこで彼らは別れた。
「今日は本当に助かったよ、どうもありがとう」
「ぼくもいい勉強になりました。また手伝いが必要なときは、何なりと」
「恩に着るよ。じゃ、気をつけてな」
 というわけで、マエストーソ氏とその助手、<訳わかんない>大学長のじきじきの要請に応えてここにりっぱに務めを果たしたわけだが--
 三日ほどしてばったり出くわしたとき、プルムセクラはこんなことを聞かされた。
「ああ、こないだの授業ねえ、本当に助かったって、学長先生に感謝されることしきりだったよ。しかしだね、彼の言うには、本校の実験室は老朽化が激しくして、マグニチュード4.5以上の衝撃に際してはその耐久性が危ぶまれるため、何とぞご考慮ねがいたい、ということだった。要するに、あの雷の実験がまずかったわけだな。で、先生いわく、来年度かそこら、国の予算がおりて、実験棟をたてかえられるようなことでもあれば、また是非とも授業をやっていただきたい、ってさ」

 (1996)








同じカテゴリー(中島迂生ライブラリー)の記事画像
2024年1月 さいきん発表した作品たちまとめ
さいきん発表した作品たちまとめ
Les tableaux peints pour mon projet de film
<モネの庭の想い出>シリーズの制作メモ
祖父について補足 思い出すままに
モネの庭の想い出:私の家族を描いた映像作品のためのスクリプト
同じカテゴリー(中島迂生ライブラリー)の記事
 2024年1月 さいきん発表した作品たちまとめ (2024-01-10 06:59)
 さいきん発表した作品たちまとめ (2023-08-18 03:20)
 Les tableaux peints pour mon projet de film (2021-09-16 04:27)
 <モネの庭の想い出>シリーズの制作メモ (2021-09-15 02:42)
 祖父について補足 思い出すままに (2021-09-15 02:15)
 モネの庭の想い出:私の家族を描いた映像作品のためのスクリプト (2021-08-28 05:57)
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。