2011年08月17日

トラス・オス・モンテス 勝手にノベライズ

 ポルトガルという国も、実は昔から何となく惹かれている場所のひとつ。
 ポルトガルを舞台にした私の作品もあるんですよ。行ったことないのに。(笑)
 北ポルトガルの海辺を舞台とした夏の物語。
 まだ読んでない方はぜひどうぞ。今の季節にぴったりの作品です。
 http://ballylee.tsukuba.ch/c6965.html

 それはそうと、2010年の秋に東京国立近代美術館フィルムセンターというところでポルトガル映画祭があって、17作品ほど上映したんです。
 できればぜんぶ見に行きたいくらいだったんだけど、絞って、ふたつだけ見に行った。
 そのうちのひとつ、アントニオ・レイスとマルガリータ・コルディロ監督・編集、アカシオ・ド・アルメイダ撮影の<トラス・オス・モンテス Tras-os-Montes >(1976年、108分、35ミリ、カラー)という作品。
 パンフの紹介文をちょっと引用すると、

「ポルトガル現代詩を代表するアントニオ・レイスが、マルガリータ・コルデイロとともにつくった初長編。
 川遊びに興じる子供たちの姿を中心に、遠い山奥のきらきらと輝く宝石のような日々を夢幻的な時間構成により浮かびあがらせる。
 公開当時、フランスの批評家たちを驚嘆させ、のちにペドロ・コスタにも影響を与えたという伝説的フィルム。」

 あまりにすばらしくて、忘れたくなくて、勝手にノベライズしちゃいました。

 実は、さいきん新しいポルトガル大使さんとお友だちになりまして。
 その記念にちょっとアップします。だいたい感じは伝わると思う。

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 <トラス・オス・モンテス>ノベライズ版 by 中島迂生

 1976年、ポルトガル。
 プロの俳優でなく、すべて地元の村人が出てる。
 その日常生活を追ったドキュメンタリーのようでいて、ふしぎな飛躍やシンボリズム、シュールなところがところどころ、突然出てきて、何の説明もなくそのまま平然と進んでいく。
 色といい、音の丸みといい、古き良きアナログ。

 はてしなく四方の果てにまで連なる丘陵の風景。
 森のみどりと、牧草地の淡みどりがまだらのパッチワークになって広がっている。
 男の子、アルマントの羊を追う掛け声。

 村の納屋。外から見えるつくりの石段。
 家の中へ入ってく。家は石造りで、内壁はしっくい塗りだ。
 おとながおとぎ話を語り聞かせている声。

「父王が私たちを殺そうとしています。逃げなくては」と、<白い花>が言いました。
「厩から<心の馬>を引いてきてください」
 そこで王子は厩へ行きましたが、間違えて<風の馬>を連れてきました。
 <白い花>は気になりましたが、時間がありません。
 二人が<風の馬>に乗って逃げていると、気づいた父王が追いかけてきました。
 そこで<白い花>が砂をつかんで投げつけると、そこに大きな海が広がって父王のゆく手をはばみました・・・

(付記。私の<石垣の花嫁>に、ほんとに似た場面があるんですよ・・・読んでくれた方は知ってると思うけど。もちろん、書いたのはずっと前だからこの映画については知ってませんでした。世界中にある類型なんでしょうね。)

 黄色いワンピースを着た、アルマントの妹。
 アルマント、となりに座って一緒に聞きはじめる。
 ランプに火が入れられ、アングルが変わって、おとぎ話のつづき・・・だが話がだいぶ飛んでる。

 ・・・王子が母親の額にキスすると、<白い花>のことを忘れてしまいました。
 七年たってやっと思い出して、探してみると、<白い花>は奴隷として売られて、バビロンの塔のてっぺんに閉じこめられていることが分かりました。
 そこは一度入ったら出てくることのできないところで・・・

 転換。
 アルマントの妹が木の机で塗り絵している。
 ルイズが入ってきて、腕を彼女の首にまわし、「何してるの?」って聞く。
 ルイズはお父さんからのおみやげのボールを持っている。
 ボール遊びする男の子たち。

 村の一角に人々が集まって、フィドルとマンドリンの演奏で踊っている。
 あそこに君の姉さんがいるぜ。・・・
 いや、よく似た別人だ。姉さんには、去年嫁にいって以来、会ってない。・・・

 アルマントの回想シーン。
 みじかい草が生える平地に川が流れて、両岸にポプラが茂っている。
 そこを渡ってくるアルマントの姉。ロバに乗り、民族衣裳を着て、白い頭飾りをつけている。
 納屋の入り口のところに恋人がいて、アルマントもいる。
 姉、入ってゆくと、飲み物をもって出てきて、恋人に渡す。

 回想シーン終わり。
 川へ行こうぜ。急に、アルマントが言い出す。
 君の姉さんの結婚式のときにも、川へ行ったね。
 草地の斜面の道を駆け出す男の子たち。

 冬の川のシーン。激しい音を立てて流れる水。ごつごつした岩地の川床。
 水についた木の枝のまわりに氷がついていたりする。
 岸沿いの川面が凍っているのを割ってみたり、死んだ魚が氷に閉じこめられているのを見つけたりして遊ぶ子供たち。
 ツイードのコート着てたり、今見てもなかなかおしゃれだ。
 そうそう、村の風物は昔のままで、文明の面影はほとんど感じられないのに、子供たちの着てる服だけはカラフルで、工場生産品だ。
 それは子供たちだけで、大人たちは黒いショールを羽織っていたり、昔ながらの格好をしてる。

 ルイズの家のシーン。
 椅子に腰かけてる母親のところにルイズがやってきて、言う。
「川には何でもあるんだよ。水晶もダイヤモンドも、トパーズもオニキスも何もかも」
 母親はにこにこしながら聞いている。それから、
「あした、おじいさんのお屋敷に行ってもいいわよ」って言う。「船をもらってきてもいいわよ」

 お屋敷のシーン。ルイズとアルマント。
 石壁に瓦屋根、スペイン風のつくり。まんなかに中庭があって、回廊みたいのがついてる。
 がらんとしたかびくさい暗い部屋を次々と探検していくふたり。
 真っ黒くなった肖像画とか、本棚の本とか。
 そのうちルイズが古い蓄音器を見つけだして、かけてみると、大昔の酒場でかかっていたような古き良き音楽が流れ出す。聞き入るふたり。

 ふたり、帰る。ルイズが母親に、「古い蓄音器を見つけたよ。あれ、くれないかな。どうしてもほしいんだけどな」って言う。
 船はもらってきた?・・・ あ、忘れた。・・・

その晩、ルイズ、母親に、おじいさんのことを尋ねる。
 お金持ちだったの?・・・ いいえ。アルゼンチンに、働きに行ってたのよ。・・・

 母親の少女時代の回想シーン。
 馬に乗って遠ざかっていく姿をいつまでも見送る。

 ルイズ、眠りにつく。翌朝、ベッドから起き出して身支度。
 昔風の白いねまき。
 鉄線の洗面台にほうろうびきの洗面器、水差し。
 水道なんてついてない。ただ洗面器がぴったりはまるようになってる台。
 いまでもアンティークの家具屋に行くとそういうのがある。

 そこで顔洗ってリネンでふいたあと着替えるのだけれど、なんかふしぎな中世みたいな服。
 あとから、これが伏線だったのかも、って思える。
 赤いチュニックにおそろいの赤い帽子、それに白いタイツ。
 アルマントと落ち合って野へ出ていくのだが、こちらも同じような、青のチュニックに青い帽子。
 
 ふたり、薪を集めながら、草の中に寝っ転がったり、木登りしたり、木のほらの中に入りこんだりして遊ぶ。
 ごつごつした岩地の川ぞいにさしかかると、急にふしぎな光景にぶつかる。
 大きな平たい岩の上に二人の女が向き合って座っている。
 ひとりは真っ赤なドレスを着て、頭につけた白い長いヴェールがドレスのすそを超えて大きく広がり、もうひとりは黒づくめだ。
 うしろには岩山がそびえ、割れ目があって、洞窟になっている。
 そこから白いハトや濃灰色のハトが一羽ずつ飛び出してきて、飛び去ってゆく。
 
 あなたたち、いつからいたの? と、黒づくめの女の方が訊く。
 さっきからです。・・・
 あなたたちも、ここに一緒にいなさい。・・・
 いいえ、うちに帰ります。・・・帰ります。・・・
 ルイズとアルマント、何だか怖くなって、逃げるように彼女たちのもとを去って走り出す。

 ようやく村を見おろせるところまでくる。
 あれ、モンテジーニョかな? なんか家並みが違うような気がするんだけど・・・
 あれがぼくの家だ。あれ? 違うかもしれない・・・

 二人、村まで降りていって、地下室の階段のところにいる二人の老人に尋ねる。
 モンテジーニョは?・・・ ここだよ。・・・
 ルイズ・****とアルマント・****は?・・・
 わしらの七代前の先祖だよ。なぜ今になってふたりの名前を持ち出す?・・・
 ふたりは顔を見合わせる。・・・ぼくらがルイズとアルマントです。・・・
 いいかげんなことを言うな。おとなをからかうんじゃない。・・・
 老人たちは本気で怒っている。ふたり、肩を落として立ち去る。
 ルイズがつぶやく。
 あの洞窟のところにいたあいだに、時間がたったのかもしれない。
 一羽のハトが飛び去るごとに、ひとつの季節が。・・・

 ルイズが、父親への手紙を書いている。
 母親が、書くべきことを口で言ってやり、それをルイズが書きとっている。
 お父さん、お元気ですか。ぼくたちは元気です。・・・
 去年お金を送ってもらったけれど、それだけでは足りません。
 子牛を一頭売りました。ぼくらのところのいちばんいい子牛ですが、わずかなお金にしかなりません・・・
 それから、母親、つづけて、全く同じおだやかな調子で。
 ふたつの羊の群れがいる。川を挟んでこちら側に白い羊の群れが、向こう側に黒い羊の群れが。
 白い羊が鳴くたびに、黒い羊が川をわたっていって、白い羊になる。
 黒い羊が鳴くたびに、白い羊が川をわたっていって、黒い羊になる。・・・
 川岸にポプラの木が生えている。
 片側半分はもえる炎に包まれ、もう半分は青々と茂っている。・・・

 次のシーンからはナレーションが入る。
 彼らの村は実は炭鉱村で、村に働き盛りの男たちがいないのはどうやらみんな炭鉱夫として働きに出ているからであるらしいことが明らかになってくる。
 賃金は少なく、地盤の落下で死ぬ者も多い。
 それでも炭鉱もしだいに衰退して、村を出ていく者も増える一方、どんどん人は少なくなっている。
 吊り橋を渡ってゆき、廃屋となった炭鉱施設の中を探検するアルマント。
 心配して探しにやってくるのは老人だ。

 それから、この村がいかに隔絶した場所であるかが語られる。
(どうやら、ここから急に何百年も前へ遡っているらしい。)
 都のことは話に聞くだけで、誰も行ったことがない、どこにあるのかも、そもそもそれがほんとうにあるのかどうかも知らない。・・・
 国王の存在など、伝説にひとしい。
 法律は、ひとにぎりの力あるものがこの国を牛耳る方便にすぎない・・・
 法律はただ都から一方的に村々へ伝えられ、みんながそれを受け入れる。
 この国の民は何と我慢強い者たちであることか!・・・

 石造りの会堂に、黒いヴェールに身を包んだ人々がいっぱいいる。
 なかにひとり、赤いみじかいワンピースを着た女がひとりいて、ひとりだけ明らかに場違いだ。
 演説台の前に、ひげを蓄えたひとりの男が立って、文書を読み上げる。
 ポルトガル国王である吾輩は、ここにいる女性****に、どこそこの領土の所有権とそれに付随する諸権利のすべてを与えることを証する。
 このことは汝の肉体の売買を伴わない。
 13**年、6月28日。・・・
 すると、赤いワンピースの女が黙って立ち上がる。

 それからカメラは順々に、会堂の壁ぎわに腰かける黒頭巾の人々の顔を映し出してゆく。
 男も女もいる。さいごのほうには黒頭巾でない、どう見ても20世紀のレインコートみたいの身に付けた人びとも列に連なっている。
 時間の流れがずーっと途切れることなく連続して流れている感じをあらわしたいのだと思う。

 それからまた村の暮らしのようすが淡々と映し出される。
 ずっと見ていると、この地方の風景は、基本森と牧草地、それから岩地、ときどきものすごい岩山、という感じ。
 カルスト地形みたいな大岩がごつごつ突き出たところを、ロバにのって横切っていく女。
 ・・・どこそこの家に子どもが生まれるようだよ。・・・じゃあ、ようすを見に行かなくちゃね。・・・
 炭鉱で働いているパパから手紙が届く。・・・読んで、読んで!・・・ 戸口で読み上げる男の子。
 舗装されていない泥の道、石造りの家々。
 ・・・マリアンヌが家を出るそうだよ。・・・ますます人が減っちまうね。・・・
 夜明けの鉄道駅で待つマリアンヌ。
 やがて、夜明け近く、ようやくものの姿が見え始めた野を突っきって、轟音とともにもくもくと煙をあげて去ってゆく列車。・・・

 
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