2009年11月08日
白い貴婦人
愛蘭土物語(あいるらんどものがたり) クレア篇8
白い貴婦人 Dame Blanche
スリーヴ・エルバの物語
2009 by 中島迂生 Ussay Nakajima
クレア州の北端、<黒岬>の少し手前に、スリーヴ・エルバ、みごとな円錐形をしたとんがり山がそびえている。
岩を刻んでつくり上げたような造形。
内陸側はそこそこ木立も広がっているが、海の側はひどく荒涼として、けわしい岩肌、その孤高の風情のために、なおいっそう高く見える。
じっさいには、アイルランドのほかの山々と比べて、それほど抜きんでて高いわけではない。
それでもこのあたりではいちばん高い山で、天から注ぐ水のしずくをいちばんさいしょに受けるところだ。
昔、そのしずくをもらいにこの山をひとり登っていった高貴な男があった。
そのころこの地方を治めていた領主の名を、アンドレアといった。
その妻はリリィ・ベル、色白でうら若く、美しい妃だった。
あるとき妃が、不治の病に冒された。
領主は必死に、妃の助かる手立てを探し求めた。
「<いのちの水>を口にするなら、お妃さまは生きつづけなさるでしょう」
と、賢者のひとりが進言した。
だが、それがどこで手に入るのか、誰も知らなかった。
領主は自ら仕度をととのえて旅に出、アイルランドじゅうの泉という泉を訪ねてまわった。
けれども、<いのちの水>が湧き出る泉など、どこにも見つからない。
領主がさいごに辿りついた泉の傍らで、疲れ果てて休んでいると、泉の中から水の神マナナーンが現れて彼に言った。
「お前は、なぜ<いのちの水>が地上の泉から湧き出ると思っているのか。
そうではない、すべての水の源は天にある。
この国でいちばん高い山、スリーヴ・エルバに登りなさい。
そのさいに、黄金の杯を携えてゆきなさい。
その山のいただきでお前が差し出す黄金の杯に、私は<いのちの水>のしずくを授けよう」
「それを飲めば、彼女はよくなるだろうか」と、領主は尋ねた。
「彼女はよくなるだろう」と、水の神は答えた。
「それでもまた、いつかは死んでしまうのだろうか?」
「それはそうだ。いつかは死ぬことになるだろう」
それを聞いて、領主は両手で顔を覆った。
「私は耐えられない。二度と彼女に、死の苦しみを味わわせたくない。
あなたは水の神、命の神ではないか。
彼女がとこしえまで、ずっと生きつづけられるようにできないのか」
それを聞くと、水の神は言った。
「それがお前の望みなのか。
彼女がとこしえまで、ずっと生きつづけるようにさせたいというのか。
それはあまり賢明なことではないかもしれないぞ」
「賢明でないなどということが、どうしてあろうか。
たしかにそれが、愛する女のために、なべての男が望むことであるにちがいない」
すると、水の神は言った。
「お前がたしかにそれを望むのなら、お前は彼女の身代わりとして己れを差し出さなくてはならない。
お前は黄泉の国へ下らねばならず、二度と地上に戻ることも、彼女に会うことも許されない。
お前はそれでもいいのか」
すると、領主は答えた。
「それでよい。私はたしかに、そうしよう」
こうして領主は自分の館へ戻った。
そして、そっと寝室に入ると、苦しげな息をたてながら伏せっている妃のようすをたしかめた。
それから彼は旅の垢を浄めると、黄金の杯を携えていまいちど出発し、スリーヴ・エルバの険しい岩道を杖ついて登っていった。
とげ草に血を流し、何度も大岩にゆく手を阻まれ、ついには水の蓄えが尽きて乾きに苦しみながら、心を強くもって登っていった。
ようやく頂にたどりついて、彼は深く息をついた。
雲の下に、下界のようすが生きた地図のように見渡せた。
西側にははるか水平線のところまで、まんまんと水を湛えた青い海が、東側にはふもとの木立と、かなたに広がるバレンの荒野、さらにその向こうに、遠くのほかの山々が。・・・
彼はふところから黄金の杯を取り出すと、天に向かって差し出した。
と、恵みの雨がさーっと降ってきて、アンドレアの喉の渇きを、スリーヴ・エルバの岩肌を、そして大地ぜんたいをうるおした。
それにつづいて雲が分かたれ、日の光が差しこんで、暗い雲むらにうつくしい虹がかかった。
そこから、ダイヤモンドのようにひときわ光りかがやく水のしずくが落ちて、黄金の杯のなかに入った。
「さあ、これが<いのちの水>だ。よく注意して、まちがいなく彼女のもとへ届けるように」
と、水の神マナナーンの声がささやいた。
領主は杯を大切に抱え、細心の注意を払ってスリーヴ・エルバを下って、館へ戻った。
そして、瀕死の妃の部屋へ入ると、その弱々しい手を握って言った。
「いとしい人、目覚めなさい。もう、何も恐くはない。
ここに<いのちの水>がある。杯をとって、お飲み。
お前はよくなって、お前の頬にはばら色の輝きが戻り、その美しさのままに、とこしえまでずっと生きつづけるだろう。」
そのしずくが妃の唇に触れると、彼女は生き返るように感じた。
長いあいだではじめて、瞳を大きく開けて、アンドレアの顔を見つめた。
その頬にゆっくりと、ばら色の血の気が差すのを見ると、彼はにっこりと微笑み、妃の額に口づけして、しずかに部屋を出ていった。
それから彼の姿を、この地上で見た者はいない。・・・
妃は回復して、すっかりよくなった。
そして、夫の姿がどこにもないのをいぶかしんだ。
まわりの者はことの真相を話し渋ったけれども、そういつまでも隠しておけることではなかった。
もちろん、妃は悲嘆に暮れた。
もはや誰にも、領主を黄泉の国から連れ戻すことはできなかった。
何年も、何年も、月日が流れて、過ぎ去った。
どれほど月日が流れても、妃は若く美しいままだった。
たくさんの王や貴族たちが再婚を申し込んだけれども、誰にも応じようとしなかった。
自分の意思の及ばないところとはいえ、自分のために夫が犠牲となったことを恥じて、すすんでおもてへ出ていこうとすらしなかった。
親しい者たちが年老いて、ひとりまたひとりと去ってゆくのを、彼女はなすすべもなく見送りつづけた。
館はしだい霧といばらに閉ざされて、ひっそりとした忘却のうちに、数百年の月日が流れ過ぎた。
ある日、妃は自分に言った。
「もう充分だわ。愛する人なしにいつまでも若く、死なずに生きつづけていても何になりましょう。
私はもう一度あの人に会いに、黄泉の国へ降りてゆこう。あの人も許してくれるでしょう」
妃は、夫が愛した白い、長いドレスに身を包み、手袋をはめて、輿に乗りこんだ。
こうして妃の一行は館を発つと、黄泉の国への入口を探し求める旅に出た。
彼らはアイルランドじゅうを旅して訪ね歩いたけれども、黄泉の国への入口は、どこにも見つけることができなかった。
西の果ての浜辺に辿りついたある夕方のことだった。
入日を受けてそびえる山の姿に、彼女は何となく見覚えがある気がした。
妃は輿を降りると、湿った砂の上を歩き、冷たい潮風に頬をさらした。
オレンジ色の夕日がその輪郭を滲ませて、海の彼方へ沈んでゆくのを見て、彼女は涙を流した。
・・・太陽でさえ帰ってゆく場所があるのに、私にはどこにもないのだわ。
と、そのとき、波間の向こうから、人の乗っていない、まばゆいばかり美しい一艘の黄金の舟が、ゆっくりと漂い流れてきて彼女の前でとまった。
彼女の落とした涙のしずくの中から、水の神マナナーンが現れて、こう言った。
「お前は黄泉の国へ行くことはできない。それは許されないのだ。
お前はとこしえまでの命を、すっかりあがなわれてしまったからだ。
気の毒に、お前の夫がもう少し賢明だったなら、こんなことにはならなかっただろうにな。
美しい人よ、さあ、この舟に乗りなさい。
この舟はお前を、ティル・ナ・ノーグ、西の果ての常若の国へ運んでいってくれる。
そこでお前はなべてこの世の憂いや悲しみを忘れ、とこしえまで喜びにみちて暮らすだろう。
その方がお前にとって、この国にとどまっているよりもよいだろう」
「そこへ行ったら、私は夫のことも忘れてしまうのでしょうか」
と、彼女は尋ねた。
「お前は彼のことも忘れるだろう」
と、水の神は答えた。
すると、彼女は顔を上げて、きっぱりと言った。
「私は今も夫のことを愛しているし、感謝している。彼のことを、忘れたくはありません。
どうしても夫のもとへゆくことを許されないというのなら、私は彼の記憶とともにこの国にとどまって、この世の終わりまでこの国をさまよいつづけましょう」
そうして彼女はふたたび輿に乗りこみ、一行は、黄金の舟をそこに残したまま去っていった。
それ以来、いまこのときに至るまで、彼らはアイルランドのどこかをさまよいつづけている。・・・
霧ふかい黄昏どき、目に見えるものと幻との入りまじる時分、ヒースの野を歩いていると、向こうからしずしずとやってくる、ふしぎな一行の姿を目にすることがある。
褐色の野に純白の、ほのかにうち光りながらやってくるすがた。
真珠やオパールや、うつくしい宝石をちりばめたドレスに身を包み、大きな瞳を伏せ、憂いを帯びた顔をうつ向けて通りすぎてゆく、そのこの世ならぬすがた。・・・
人々は彼女を<白い貴婦人>と呼ぶ。
それは、かつて黄泉の国への入口を探し求めて許されず、愛するものの追憶のために、今なおとこしえまでこの地上をさまよいつづけるリリィ・ベル、美しき領主の妃の姿なのだ。・・・
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白い貴婦人 Dame Blanche
スリーヴ・エルバの物語
2009 by 中島迂生 Ussay Nakajima
クレア州の北端、<黒岬>の少し手前に、スリーヴ・エルバ、みごとな円錐形をしたとんがり山がそびえている。
岩を刻んでつくり上げたような造形。
内陸側はそこそこ木立も広がっているが、海の側はひどく荒涼として、けわしい岩肌、その孤高の風情のために、なおいっそう高く見える。
じっさいには、アイルランドのほかの山々と比べて、それほど抜きんでて高いわけではない。
それでもこのあたりではいちばん高い山で、天から注ぐ水のしずくをいちばんさいしょに受けるところだ。
昔、そのしずくをもらいにこの山をひとり登っていった高貴な男があった。
そのころこの地方を治めていた領主の名を、アンドレアといった。
その妻はリリィ・ベル、色白でうら若く、美しい妃だった。
あるとき妃が、不治の病に冒された。
領主は必死に、妃の助かる手立てを探し求めた。
「<いのちの水>を口にするなら、お妃さまは生きつづけなさるでしょう」
と、賢者のひとりが進言した。
だが、それがどこで手に入るのか、誰も知らなかった。
領主は自ら仕度をととのえて旅に出、アイルランドじゅうの泉という泉を訪ねてまわった。
けれども、<いのちの水>が湧き出る泉など、どこにも見つからない。
領主がさいごに辿りついた泉の傍らで、疲れ果てて休んでいると、泉の中から水の神マナナーンが現れて彼に言った。
「お前は、なぜ<いのちの水>が地上の泉から湧き出ると思っているのか。
そうではない、すべての水の源は天にある。
この国でいちばん高い山、スリーヴ・エルバに登りなさい。
そのさいに、黄金の杯を携えてゆきなさい。
その山のいただきでお前が差し出す黄金の杯に、私は<いのちの水>のしずくを授けよう」
「それを飲めば、彼女はよくなるだろうか」と、領主は尋ねた。
「彼女はよくなるだろう」と、水の神は答えた。
「それでもまた、いつかは死んでしまうのだろうか?」
「それはそうだ。いつかは死ぬことになるだろう」
それを聞いて、領主は両手で顔を覆った。
「私は耐えられない。二度と彼女に、死の苦しみを味わわせたくない。
あなたは水の神、命の神ではないか。
彼女がとこしえまで、ずっと生きつづけられるようにできないのか」
それを聞くと、水の神は言った。
「それがお前の望みなのか。
彼女がとこしえまで、ずっと生きつづけるようにさせたいというのか。
それはあまり賢明なことではないかもしれないぞ」
「賢明でないなどということが、どうしてあろうか。
たしかにそれが、愛する女のために、なべての男が望むことであるにちがいない」
すると、水の神は言った。
「お前がたしかにそれを望むのなら、お前は彼女の身代わりとして己れを差し出さなくてはならない。
お前は黄泉の国へ下らねばならず、二度と地上に戻ることも、彼女に会うことも許されない。
お前はそれでもいいのか」
すると、領主は答えた。
「それでよい。私はたしかに、そうしよう」
こうして領主は自分の館へ戻った。
そして、そっと寝室に入ると、苦しげな息をたてながら伏せっている妃のようすをたしかめた。
それから彼は旅の垢を浄めると、黄金の杯を携えていまいちど出発し、スリーヴ・エルバの険しい岩道を杖ついて登っていった。
とげ草に血を流し、何度も大岩にゆく手を阻まれ、ついには水の蓄えが尽きて乾きに苦しみながら、心を強くもって登っていった。
ようやく頂にたどりついて、彼は深く息をついた。
雲の下に、下界のようすが生きた地図のように見渡せた。
西側にははるか水平線のところまで、まんまんと水を湛えた青い海が、東側にはふもとの木立と、かなたに広がるバレンの荒野、さらにその向こうに、遠くのほかの山々が。・・・
彼はふところから黄金の杯を取り出すと、天に向かって差し出した。
と、恵みの雨がさーっと降ってきて、アンドレアの喉の渇きを、スリーヴ・エルバの岩肌を、そして大地ぜんたいをうるおした。
それにつづいて雲が分かたれ、日の光が差しこんで、暗い雲むらにうつくしい虹がかかった。
そこから、ダイヤモンドのようにひときわ光りかがやく水のしずくが落ちて、黄金の杯のなかに入った。
「さあ、これが<いのちの水>だ。よく注意して、まちがいなく彼女のもとへ届けるように」
と、水の神マナナーンの声がささやいた。
領主は杯を大切に抱え、細心の注意を払ってスリーヴ・エルバを下って、館へ戻った。
そして、瀕死の妃の部屋へ入ると、その弱々しい手を握って言った。
「いとしい人、目覚めなさい。もう、何も恐くはない。
ここに<いのちの水>がある。杯をとって、お飲み。
お前はよくなって、お前の頬にはばら色の輝きが戻り、その美しさのままに、とこしえまでずっと生きつづけるだろう。」
そのしずくが妃の唇に触れると、彼女は生き返るように感じた。
長いあいだではじめて、瞳を大きく開けて、アンドレアの顔を見つめた。
その頬にゆっくりと、ばら色の血の気が差すのを見ると、彼はにっこりと微笑み、妃の額に口づけして、しずかに部屋を出ていった。
それから彼の姿を、この地上で見た者はいない。・・・
妃は回復して、すっかりよくなった。
そして、夫の姿がどこにもないのをいぶかしんだ。
まわりの者はことの真相を話し渋ったけれども、そういつまでも隠しておけることではなかった。
もちろん、妃は悲嘆に暮れた。
もはや誰にも、領主を黄泉の国から連れ戻すことはできなかった。
何年も、何年も、月日が流れて、過ぎ去った。
どれほど月日が流れても、妃は若く美しいままだった。
たくさんの王や貴族たちが再婚を申し込んだけれども、誰にも応じようとしなかった。
自分の意思の及ばないところとはいえ、自分のために夫が犠牲となったことを恥じて、すすんでおもてへ出ていこうとすらしなかった。
親しい者たちが年老いて、ひとりまたひとりと去ってゆくのを、彼女はなすすべもなく見送りつづけた。
館はしだい霧といばらに閉ざされて、ひっそりとした忘却のうちに、数百年の月日が流れ過ぎた。
ある日、妃は自分に言った。
「もう充分だわ。愛する人なしにいつまでも若く、死なずに生きつづけていても何になりましょう。
私はもう一度あの人に会いに、黄泉の国へ降りてゆこう。あの人も許してくれるでしょう」
妃は、夫が愛した白い、長いドレスに身を包み、手袋をはめて、輿に乗りこんだ。
こうして妃の一行は館を発つと、黄泉の国への入口を探し求める旅に出た。
彼らはアイルランドじゅうを旅して訪ね歩いたけれども、黄泉の国への入口は、どこにも見つけることができなかった。
西の果ての浜辺に辿りついたある夕方のことだった。
入日を受けてそびえる山の姿に、彼女は何となく見覚えがある気がした。
妃は輿を降りると、湿った砂の上を歩き、冷たい潮風に頬をさらした。
オレンジ色の夕日がその輪郭を滲ませて、海の彼方へ沈んでゆくのを見て、彼女は涙を流した。
・・・太陽でさえ帰ってゆく場所があるのに、私にはどこにもないのだわ。
と、そのとき、波間の向こうから、人の乗っていない、まばゆいばかり美しい一艘の黄金の舟が、ゆっくりと漂い流れてきて彼女の前でとまった。
彼女の落とした涙のしずくの中から、水の神マナナーンが現れて、こう言った。
「お前は黄泉の国へ行くことはできない。それは許されないのだ。
お前はとこしえまでの命を、すっかりあがなわれてしまったからだ。
気の毒に、お前の夫がもう少し賢明だったなら、こんなことにはならなかっただろうにな。
美しい人よ、さあ、この舟に乗りなさい。
この舟はお前を、ティル・ナ・ノーグ、西の果ての常若の国へ運んでいってくれる。
そこでお前はなべてこの世の憂いや悲しみを忘れ、とこしえまで喜びにみちて暮らすだろう。
その方がお前にとって、この国にとどまっているよりもよいだろう」
「そこへ行ったら、私は夫のことも忘れてしまうのでしょうか」
と、彼女は尋ねた。
「お前は彼のことも忘れるだろう」
と、水の神は答えた。
すると、彼女は顔を上げて、きっぱりと言った。
「私は今も夫のことを愛しているし、感謝している。彼のことを、忘れたくはありません。
どうしても夫のもとへゆくことを許されないというのなら、私は彼の記憶とともにこの国にとどまって、この世の終わりまでこの国をさまよいつづけましょう」
そうして彼女はふたたび輿に乗りこみ、一行は、黄金の舟をそこに残したまま去っていった。
それ以来、いまこのときに至るまで、彼らはアイルランドのどこかをさまよいつづけている。・・・
霧ふかい黄昏どき、目に見えるものと幻との入りまじる時分、ヒースの野を歩いていると、向こうからしずしずとやってくる、ふしぎな一行の姿を目にすることがある。
褐色の野に純白の、ほのかにうち光りながらやってくるすがた。
真珠やオパールや、うつくしい宝石をちりばめたドレスに身を包み、大きな瞳を伏せ、憂いを帯びた顔をうつ向けて通りすぎてゆく、そのこの世ならぬすがた。・・・
人々は彼女を<白い貴婦人>と呼ぶ。
それは、かつて黄泉の国への入口を探し求めて許されず、愛するものの追憶のために、今なおとこしえまでこの地上をさまよいつづけるリリィ・ベル、美しき領主の妃の姿なのだ。・・・
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